研究課題/領域番号 |
20H03927
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
藤野 陽 金沢大学, 保健学系, 教授 (40361993)
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研究分担者 |
林 研至 金沢大学, 保健学系, 准教授 (00422642)
多田 隼人 金沢大学, 附属病院, 助教 (90623653)
野村 章洋 金沢大学, 附属病院, 特任准教授 (30707542)
中西 千明 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (80623660)
高村 雅之 金沢大学, 医学系, 教授 (60362000)
朝野 仁裕 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任准教授(常勤) (60527670)
塚本 蔵 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 准教授 (80589151)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 遺伝性心血管疾患 / 登録観察研究 / 心血管イベント / 次世代シークエンサー / 治療薬探索 |
研究実績の概要 |
研究目的は、3つである。(1)遺伝性心血管疾患の登録観察研究を遂行し、臨床的・遺伝学的パラメーター記録と経過追跡により、心血管イベント危険因子を層別化する。(2)次世代シークエンサーにより遺伝学的検査を施行し、変異未検出例において病因遺伝子変異を探索する。(3)重要と思われる遺伝子変異について疾患特異的iPS細胞を用いた機能解析を行い、病態解明と治療薬探索の足がかりとする。 (1)に関して、遺伝性心血管疾患である肥大型心筋症や拡張型心筋症を含む登録観察研究を遂行した。1,328名の非弁膜症性心房細動患者(男性が965名、平均年齢は72.4歳)を登録し、臨床経過を追跡して、心血管イベントの危険因子を探索した。追跡期間の中央値は5年で、四分位範囲は3.5年から5.3年であった。患者の年齢別に危険因子を評価するために、75歳以上の595名(高齢者群)と75歳未満の733名(非高齢者群)との間で、血栓塞栓症と大出血の発症率を比較した。Gray検定により解析した結果、血栓塞栓症に関しては両群間に有意差を認めなかったが、大出血に関しては、高齢者群において発症率が有意に高いことが示された。高齢者群において年齢と性別で補正した後のFine-Grayモデルでは、加齢 (hazard ratio [HR] 1.08; 95% confidence interval [CI] 1.02-1.13; P=0.004) とワーファリン内服 (HR 1.87; 95% CI 1.12-3.14; P=0.02) の2つの因子が、大出血と有意に関連していることが示された。高齢者群においては、ワーファリンを内服する患者は、直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants, DOACs)を内服する患者と比較して、血栓塞栓症と大出血の発症率が高いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
登録観察研究において、非弁膜症性心房細動患者の臨床経過を追跡した。75歳以上の高齢者群と75歳未満の非高齢者群の2群を解析し、高齢者群においてワーファリン内服患者は、DOACs内服患者と比較して血栓塞栓症と大出血の発症率が高いことが判明した。非弁膜症性心房細動患者では高齢者群において、有効性と安全性の両面からDOACs内服が望ましいと考察した。 遺伝性心血管疾患の1つである家族性高コレステロール血症について、病原性遺伝子変異と臨床病型についての関連を後ろ向きに研究した。臨床病型としては、低比重リポタンパク質(low-density lipoprotein, LDL)の値と主要心血管イベントの発症を調査した。1,050名(男性 490名)の家族性高コレステロール血症患者において、心臓血管死、心筋梗塞、不安定狭心症、及び、冠動脈血行再建の施行を、主要心血管イベントと定義した。遺伝型に関して、病原性遺伝子変異を有しない群、病原性ミスセンス遺伝子変異を有する群、及び、タンパク切断バリアント(protein-truncating variants, PTVs)を有する群の3群に分けて解析を行った。追跡期間の中央値は12.6年で、四分位範囲は9.5年から17.9年であった。665名の患者が、家族性高コレステロール血症の病原性遺伝子変(277名にミスセンス変異、388名にPTVs)を有していた。その中で、89の異なったバリアントを検出した。追跡期間中、175の主要心血管イベントが観察された。LDL値はPTVsにおいて256 mg/dLと、ミスセンス遺伝子変異群(236 mg/dL)や病原性遺伝子変異を有しない群(216 mg/dL)と比較して、有意に高値であることを示した。またPTVsとミスセンス遺伝子変異群は、古典的危険因子とは独立して、主要心血管イベントと有意に関連することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
心筋症研究と北陸プラス家族性高コレステロール血症登録観察研究、次世代シークエンサーによる遺伝学的検査を施行し、変異未検出例において病原性遺伝子変異を探索する。金沢大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会にて承認(平成26年9月、審査番号 2016-021)された「遺伝性心血管疾患における集中的な遺伝子解析及び原因究明に関する研究」計画書・説明書に則り、心筋症患者及び家族性高コレステロール患者に遺伝学的検査の説明を行い、書面での同意を取得する。候補遺伝子は心筋症の原因遺伝子として確立したサルコメア遺伝子の他、心ファブリー病の原因遺伝子であるαガラクトシダーゼ遺伝子、等を含む。家族性高コレステロール血症についてはLDL受容体遺伝子、アポB遺伝子、PCSK9遺伝子に加え現時点で劣性遺伝性疾患の原因分子とされるABCG5遺伝子、ABCG8遺伝子、アポE遺伝子、等を、候補遺伝子として含む。遺伝学的検査については、心筋症と家族性高コレステロール血症、両疾患に共通であり、グループ内で統合した同じスキームで遺伝子変異の検出を目指しているため、低コストかつ高効率である。 心筋症の病因遺伝子を導入したiPS心筋細胞及びノックインマウスを作製して、機能解析を進める。具体的には、MYLK3遺伝子によりコードされる心筋特異的ミオシン軽鎖キナーゼ(cardiac-specific myosin light chain kinase, cMLCK)に着目している。cMLCKは力学的負荷により一過性に活性化され、サルコメアの再構築に関与することが示されている。MYLK3遺伝子ノックインマウスを作製して、それが拡張型心筋症の病態を示すことを確認した上で、AAV9ベクターによるcMLCKを標的とした心不全療法探索の足がかりとする。並行してMYLK3遺伝子変異保因者由来のiPS細胞を作製し、機能解析を行う。
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