研究課題
本研究の目的は、薬剤耐性および臨床検査の面で近年注目されている新規ブドウ球菌種S.argenteus、市中感染型MRSA(CA-MRSA)、抗MRSA薬耐性菌等について、その疫学的状況を明らかにし感染対策の方策を探ることである。今年度は北海道において分離されたS.argenteus 82株、血液由来CA-MRSA 277株を対象として、分子疫学的解析を行った。S.argenteusは3つの遺伝子型ST1223、ST2198、ST2250に分類され、ST2250が最も多かった。STにより病原因子、特にエンテロトキシン(様)遺伝子と、薬剤耐性に違いが認められた。ST2198株は、他の2つのSTに比べ薬剤耐性遺伝子の検出率および一部薬剤への耐性率が有意に高かった。Panton-Valentine leukocidin(PVL)陽性菌、SCCmecIVcを有するメチシリン耐性菌がST2250において1株ずつ同定された。血液由来CA-MRSAでは、SCCmecIIaを保有するST5/ST764/ST2389が最も多く、次いで多かったのはSCCmecIVa、IVlを有する株であった。米国で優勢なUSA300と同じ特徴(SCCmecIVa/ST8/PVL+/ACME+)の株が全体の5.1%を占めており、以前のデータと比較して増加の傾向が示唆された。一方、PVLを保有しないSCCmecIVa MRSAが64株(23%)検出され、それらは多様な遺伝子型に属していた。USA300クローンが典型的に有するspeG遺伝子が、ST764-SCCmecIIaのMRSA2株に存在することが判明し、新たな特徴を持つMRSAが出現していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
日本国内における新規ブドウ球菌種(S. argenteus)、市中感染型MRSAの解析を実施することができたため。2020年度はCOVID-19パンデミックのため、共同研究相手国ミャンマーとバングラデシュとの渡航はできなかったが、現地での菌株の収集は継続されているため。
新規ブドウ球菌種S.argenteusと血液由来CA-MRSAの収集は今年度まで行い、更なる継続的な解析を行う。抗MRSA薬のうち、以前分離され我々が保管しているバンコマイシン低感受性菌の全ゲノム解析を行い、耐性に関連する遺伝子を同定する。ミャンマーのヤンゴン小児病院で分離された菌株を対象として、分子疫学的解析を行う。バングラデシュ(マイメンシン医科大)では現地医療機関において臨床材料からブドウ球菌を分離し、冷凍保存する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件)
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