計画最終年度の今年度は、リポポリサッカリドを用いた敗血症モデルではなくヒ素及びアセトアミノフェンによる中毒モデルにおける炎症性細胞死パイロトーシスの関与とその制御機構について解析を行なった。まずヒ素の中でも最も毒性の高い分子種である三酸化二ヒ素(亜ヒ酸)をヒト肝がん細胞株であるHuh-7に曝露させた場合の細胞死を調べたところ、ガスダーミンEの分解を伴うパイロトーシスであった。興味深いことに、細胞死と並行して細胞老化が観察された。プロテオミクス解析によりfilamin-Cの著明な増加を認め、RNA干渉法によりfilamin-Cの発現を低下させると細胞老化が抑制される一方細胞死は悪化した。以上のことからfilamin-Cは細胞老化を促進させることで細胞死を回避していると考えられた。次に鎮痛解熱剤であるアセトアミノフェンの肝細胞毒性モデルにおける細胞死を調べたところ、やはりガスダーミンEの活性化を伴うパイロトーシスであった。抗酸化剤であるN-アセチルシステイン(NAC)はグルタチオンの前駆体として働くことでその抗酸化作用を発揮するが、意外なことにアセトアミノフェンの肝毒性は10mMという高濃度のNACではむしろ増悪された。10mM NACが投与された細胞では酸化型グルタチオン量が著増しており、細胞内レドックス状態はむしろ悪くなっていると推察された。過度のNACはむしろ病態を増悪させる可能性については動物実験モデルでも指摘されており、それを裏付ける結果であった。
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