研究課題/領域番号 |
20H03956
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉木 敬二 京都大学, 医学研究科, 教授 (90217175)
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研究分担者 |
橋谷田 真樹 関西医科大学, 医学部, 准教授 (40374938)
山田 亮 京都大学, 医学研究科, 教授 (50301106)
眞鍋 翔 関西医科大学, 医学部, 助教 (00794661)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 体液識別 / 混合試料 / 個人識別 |
研究実績の概要 |
これまで「誰のDNA」がどのくらい含まれているかの判定システムの構築のために、その基本となるキャピラリー電気泳動法(CE法)における閾値設定やソフトウェアのパラメータ設定について検討したが、令和3年度は汎用性を備えた混合試料解析ソフトウェアが開発できた。これまでわれわれが開発したソフトウェア(Kongoh)は、最近わが国の法医鑑識で導入された DNA検査システム(GlobalFiler)のデータ解析ができなかったが、今回の改訂によりこれまでの検査だけでなくGlobalFilerにおいても、より詳細なDNA量の混合比の算出や、問題となる人のDNAの有無に関するより中立的な尤度比の値が算出されるようになり精度が向上した。ソフトウェアは米国DNA解析方法に関する科学的作業グループ(SWGDAM)が推奨する「確率的ジェノタイピングシステムの検証のためのガイドライン」の則った検証を終えて論文発表した。 また、今年度は「何の」DNAであるかの研究成果が得られた。現場試料に「誰の」DNAが含まれているかだけでなく、「何の」試料由来であるかを判断できれば、その人のDNAが現場に遺留された理由を探る情報となる。例えば、現場に残されたDNAが血液と精液では、その遺留様態について全く異なるシナリオを考慮しなくてならない。われわれは、ヒトDACT1の第4エクソンが精液ではメチル化率が低いという現象を利用して、精液と血液や唾液との識別ができるか検討した。メチル化の計測にはメチレーション感受性高解像融解法(MS-HRM)を用いた。その結果、精液は他の体液に比べてメチル化が低いため、融解温度が低くなるため、異種体液混合試料においても精液由来のDNA量の推定ができることがわかった。このため、SI(semen DNA content index)という指標を作成し、その定量化による判断指標とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の研究遂行は新型コロナウイルス感染防止策に伴う緊急事態宣言などの行動制限のため非常に困難であったが、令和3年度はさらに感染者数が増えてしまい、まん延防止等重点措置が長期間継続された。幸い、本研究計画に携わる人たちに直接的な感染などの健康被害はなかったが、家族に濃厚接触者が出ると登学を制限されるなど、残念ながら研究環境が改善したとは言い難く、依然として研究がしにくい厳しい状況である。特に、昨秋には一旦新規感染者数が少なくなったが、2022年の年明けとともにこれまでにない急増になったため、大学の制限もより厳しくなった。現在、研究活動の制限はほぼ解除されているが、新規感染者数は下げ止まりの傾向を示しており、予断を許さない状況となっている。このため、令和3年度はまとまった期間に効率良く実験研究をすることは不可能に近かった。しかし、DNA混合資料解析における「何の」DNAであるか試料の由来が推定できる方法の研究や「誰の」DNAがどの程度含まれているという根源的な課題の解決においては資料の実験研究を最小限に絞ったり、コンピュータシミュレーションやプログラム改良など在宅でも可能な部分を増やしたため、研究はほぼ順調に進められた。しかし、陳旧資料実験の研究は、検体採取や回収が時期的に殆ど不可能であったため進んでいない。今後のコロナ禍の推移もまだ不透明であり、その影響がある可能性を考慮せざるを得ない。このため、採取する試料を制限したり、実験方法を変えるなど研究計画の一部を変更して、影響を最小限に留める工夫をして研究ができるよう検討している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、混合資料解析のうちの「誰の」DNAがどのくらい含まれているかを解決する方法の開発について、重点的に進めてきた。この課題はDNA型検査の根幹をなすものであるが、画期的なコンティニュアス・モデルのソフトウェアの開発によって、検査結果のより正確な数学的解釈が飛躍的に進歩したといえる。しかし、わが国の法医鑑識の現状での利用には多くの課題が残されており、諸外国に比べて導入は進んでいない。この一つの要因にはソフトウェアの汎用性の問題があった。そこで、われわれは昨年度に汎用性の高いソフトウェアの開発を行い、論文発表と同時にソフトウェアをウェブ上に公開して利用者の利便性を図っている。今後はこのソフトウェアの紹介と利用の啓発も図っていきたい。 また、「何の」DNAであるかについてもDACT1遺伝子の一部のメチル化が精液で低いことを利用した精液と血液、唾液との識別法を開発した。今後も体液識別のできる他のメチル化関連遺伝子領域を検索する。さらに、メチル化だけでなく臓器特異的マイクロRNAの組み合わせによる混合試料識別の可能性についても検討を続けたい。 また「いつ頃の」DNAかも示唆するような情報があれば証拠の価値はさらに高まり、事件における関与者の様態についても示唆する情報になりえる。陳旧資料からのDNA抽出実験により、DNA変性の程度と検査結果の関係についてより具体的なデータを示せるよう工夫したい。 本研究計画は着手した令和2年当初より研究成果は積み上げられてきているが、新型コロナウイルス感染防止策の活動制限のため、研究計画通りには進んでいない。残念ながら現時点でも活動制限に関し予断を許さない状況である。このため、研究計画の一部見直しなど状況に応じて柔軟に研究を進めていきたい。
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