これまで、事件などにおける現場遺留資料から「誰の」「何の」DNAであるかを判定する方法について研究を進めてきたが、今年度は3つ目の課題である、遺留資料が「いつ頃の」DNAかを推定する手法の開発に着手した。体液斑痕からその付着時期を推定する指標として、体液特異的RNAの発現量などが報告されているが、われわれはDNA損傷の一種である脱アミノ化に着目した。塩基の一種であるシトシンは脱アミノ化によりウラシルに変化する。この変異体が複製されると、アデニンと相補対を形成しシトシンからチミンへの変異が生じる。生体内ではウラシルの除去による修復が行われるが、遺留資料では変異が修復されずに蓄積すると考えられる。本研究では、先行研究で短期間でのシトシン脱アミノ化が観察された領域のうち4領域についてプライマーを設計し、サンガーシークエンスによりシトシンの脱アミノ化について観察した。材料として、血液及び唾液を採取し、室温にて乾燥条件及び湿潤条件で数か月経過させた。資料を定期的にサンプリングしてDNA抽出を行い、塩基配列の変化を比較した。その結果、1か月経過した資料では血液・唾液ともに、サンガーシークエンスにおける波形上では、塩基の変化を捉えることはできなかった。その原因として、短期間では観察可能な変異が生じていないか、あるいは、脱アミノ化の変化量がごく微量であるためサンガーシークエンスでは検出できない、などが考えられた。今後は、長期間経過させた資料で引き続き検討を行うと同時に、変異をより高感度に捉えられるパイロシーケンシングなど次世代シークエンサーで解析を進めたいと考えている。
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