研究実績の概要 |
本研究は,大動脈瘤を起因とする突然死の死因の新規指標開発のためにケモカインシステムに焦点を当て,遺伝子改変動物を用いた基礎的研究と,ヒト剖検資料を用いた実務的研究を組み合わせた包括的研究である.具体的には腹部大動脈瘤動物モデルを用いて,大動脈瘤の病態形成過程においてkey playerとなるケモカイン及びケモカイン受容体の発現動態と病態形成との関係性を明らかにする.その結果に基づいて,実際の法医剖検例において採取した各種臓器におけるケモカイン及びケモカイン受容体の動態を検討する.最終的には,ケモカインシステムが動脈瘤を起因とする突然死における死因判定の有用な分子指標の一つとなり得るか否かについて検討し,病態生理学に基づく分子生物学的法医診断法の確立を目指す. 塩化カルシウム誘発腹部大動脈瘤モデルの作製:野生型マウスを用いて腹部大動脈を0.5M塩化カルシウム溶液で15分浸し,沈着したカルシウムによって炎症が遷延化することで大動脈瘤を生じさせた. アンギオテンシンII誘発腹部大動脈瘤モデルの作製:野生型マウスを用いてアンギオテンシンIIを4週間持続全身投与し,動脈硬化を基盤とする大動脈瘤を発生させた. 病変部を採取して,ヘマトキシリン-エオジン染色およびマッソン・トリクローム染色を施し,形態学的変化を観察した.また,好中球,マクロファージ,Tリンパ球に対する抗体を用いて,免疫染色を行った.さらに,サイトカイン(IL-1a, IL-1b, IL-6, IL-10, TNF-a, IFN-g)やケモカイン(CCL2, CCL3, CCL5,CX3CL1, XCL1)について,リアルタイムRT-PCR法により,遺伝子発現を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2つの大動脈瘤モデルを確立し,病変部を採取した.採取した病変部を用いて遺伝子発現を検討したところ,野生型マウスの病変部ではCcl3, Ccl4, Ccl5, Ccr1, Ccr5, Cx3cl1およびCx3cr1の発現が亢進していることが判明した.さらに,Cx3cr1遺伝子欠損マウスを用いてCaCl2大動脈瘤を惹起したところ,野生型マウスと比べて,CaCl2大動脈瘤形成(大動脈径)が減弱していた.
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