研究実績の概要 |
本研究は褥瘡が治癒した瘢痕部を対象に、皮膚生理機能、皮膚細菌叢、瘢痕部病態を前向きに観察、計測し、褥瘡再発の有無で比較する。この成果をもとに褥瘡瘢痕部に特化した再発を予防するスキンケアの開発基盤を確立することが目標である。 2022年度もコロナ禍の影響で新たな臨床調査は実施せず、これまでの調査で収集した皮膚生理機能データの解析、ならびに先行研究で抽出された外力低減ケアに関する基礎実験と症例検討を行った。 褥瘡治癒後から毎週1回、8週間追跡した30名の長期高齢者の観察、計測したデータのサーモグラフイカメラ画像を解析した。30名中8名が同一部位に褥瘡を再発した。解析の結果、褥瘡瘢痕部周囲皮膚と比較した皮膚温度上昇が再発を予測する指標となることが示唆された(odds ratio: 101.12, 95%CI: 3.60-2840.77, p=0.007)。また、2週間以内に発生を予測する診断精度の指標は、感度0.80、特異度0.94、陽性反応的中率0.62、陰性反応的中率0.97であった。 外力低下ケアとして褥瘡治癒後に多層フォームドレッシングを貼付する局所保護を採用した。臨床で使用される3種類のフォームを臀部モデルに貼付し、モデル表面ならびに内部にかかる力を3軸タクタイルセンサーで測定した。臀部モデルに水平力を負荷する実験において、モデル表面にかかる動的摩擦は、フォームaはcより有意に大きかった。モデル内部の圧力は、フォームbは、a,cより有意に大きかった。モデル内部のせん断力に有意差はなかった。治癒後にフォームbを貼付した2症例の瘢痕部の病態を超音波画像で検討した。再発した症例は低輝度所見と周囲健常とは異なる粗い画像を認めたが、再発しなかった症例は周囲組織と同等の輝度に近づく変化を示した。今後、さらに症例を蓄積し再発予防ケアの構築を目指す。
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