研究課題/領域番号 |
20H03971
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
川野 常夫 摂南大学, 理工学部, 教授 (90152983)
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研究分担者 |
真嶋 由貴恵 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (70285360)
石亀 篤司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60212867)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 介助動作 / 熟練看護 / 暗黙知 / 生体計測 / ロボット |
研究実績の概要 |
要介護高齢者のQOLの向上および看護または介護する側の負担の軽減を達成するために,高齢者の身体的生体リズム,あるいは感情的生体リズムに同調する熟練看護の「技(わざ)」や「コツ」などの「暗黙知」を実験的に定量化することを目的として,介助作業の追加実験を行った。その他,初学者への指導を視野に,仮想力覚と仮想空間を応用した初学者のための介護訓練システムの試作や介助作業中の身体負荷を可視化するAIカメラの開発に取り組んだ。 初学者のための介護訓練システムでは,起き上り介助の訓練を仮想空間内でできるように,肘に任意の力を感じる仮想力覚装置を独自に試作し,他方,VR(バーチャルリアリティー)のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を通して,あたかも目の前にベッド上に横たわる高齢者がいるように見える没入型の仮想空間を構築した。このシステムのメリットは実際の高齢者で訓練をする必要がなく,また種々の体格および残存能力の高齢者で訓練ができる点である。AIカメラの開発では,通常のビデオ映像を撮影するカメラ機能を持ち,AI(人工知能)によりその映像だけから人間の関節点座標を読取り,人間の映像に重ねて骨格線をリアルタイムに表示するものを開発した。また,同時に力学解析によって求めた身体各関節部の負担が,関節まわりの円の色と大きさで可視化して表示するシステムを開発した。このAIカメラのメリットは小型で簡便なカメラであるため,病室のような狭い空間でも実際の動作を評価できる点である。 次に,本研究の最終ゴールである熟練者の暗黙知に則って動く介助支援ロボットの開発には,人型ロボットであるSciurus17(アールティー社製)を用いた。このロボットは実際の人間を介助するだけのパワーはないが,高齢者人形を対象に最適な介助作業を実現し,初学者の学習の手本となるものを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では,最終ゴールの一つとして,介護の「初学者の指導書」をまとめ上げることを挙げていたが,指導書だけでは学習効果が期待されないため,仮想力覚装置を用いて仮想空間内で介助作業を体験できるシステムの構築を行った。また,病室のような狭い空間であっても,実際の介助動作を評価できるAIカメラの開発を行った。これらは初学者にとって指導書以上の効果のあるツールであると考えられ,この点においては当初の計画以上に進展していると考えている。一方,もう一つのゴールである熟練介護のロボット化においては,導入した人型ロボットを用いて,基本的な介助動作のプログラムはできたものの,高齢者の残存能力に合わせて腕の力加減を制御するような熟練の技の移植までには至っていない。以上のことから,研究全体としては,おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の中心的テーマは,前年度に引き続き,看護・介護の熟練者の介助方法を模倣する介助支援ロボットの制御方法の確立である。導入した人型ロボットは,各関節モータの電流値が読み取れる。電流値はモータの負荷の大きさを表すため,その電流値により時々刻々の高齢者の動き(負担の大きさ)を検知し,高齢者が動くために必要な力の一部(例えば,30%)を自在に変更して支援するようにする。まずはパイロットスタディとして,ベッドの起き上り介助を行う機能のみを有する基本的なロボットとし,ロボットのモータの電流値により,高齢者自身の負荷を測定し,それの一部を支援する。本研究では,形式知化された熟練者の種々のノウハウをロボットに組み込むしくみの構築が目的であり,それができ上れば,それぞれの目的に応じて,その都度,入力を行えるようになる。
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