研究課題/領域番号 |
20H03991
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
外崎 明子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 国立看護大学校 成人看護学 教授
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | 呼吸器疾患患者呼吸 / 喀痰色調識別装置開発 / 呼吸音識別 / データベース |
研究実績の概要 |
慢性呼吸器疾患患者の呼吸音は増悪や発作時など体調によって変化することから、まず、呼吸器感染徴候を示唆する喀痰性状の変化に関する文献的検討を行った。また、呼吸音の音声学的特性識別装置および感染徴候の有無による喀痰の色調分類チャートを作成し、これを教師用データとする方法について検討を行った。その結果、画像データを用いた方法にはいくつかの問題点があることから、呼吸音を用いた解析について検討することとした。健康成人を被験者として、自身の胸部および背部に聴診器(ベル部)をあてがい、自己録音可能な電子聴診器を選定するために、複数の企業が開発する聴診デバイスの情報収集と性能の比較検討を行い、入手可能なものについて購入・調査を行った。 システム利用者が呼吸音を含むモニタリングを継続できるよう、看護支援のための手法を検討することを目的として外崎と研究協力者・鈴木は文献検討を開始した。また、自己録音データを収集した後に、そのデータを解析するための方法についても検討を行った。大村と研究協力者・青柳裕介は、周波数ピーク推定手法に基づくいびき様肺雑音の検出に関する研究を行った。また、田畑と研究協力者・郡優介は、メルスペクトログラムとCNNによる肺音における異常音の分類について研究した。 喀痰色調識別装置開発の準備として、複数の評価者の一致の度合いを測るCohen's kappaやWeighted Kappaなどに関する調査を行った。また、患者のセルフモニタリング指標として、喀痰の色調と身体データ(体温、呼吸数、呼吸困難程度、経皮的酸素飽和度、CRP 等の血液データ、抗菌薬の投与、胸部レントゲン撮影結果所見)の関連性に関する統計解析について検討を行った。さらに、呼吸音の判別システム、喀痰の色調と身体データを用いた患者の体調予測モデルの融合についても検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染徴候の有無による喀痰の色調分類チャートを作成し、これを教師用データとする方法について検討を行った。自宅療養中の患者がTabletで写真を撮影して喀痰の色調分類チャートと比較することを考えたが、写真の撮り方によって結果が大きく変わることが予想されるため、推定精度を上げるためには大量のデータとチューニングが必要であることが確認された。そのため、呼吸音を用いた解析に重点を置くこととした。 健康成人を被験者として、自身の胸部および背部に聴診器(ベル部)をあてがい、自己録音可能な電子聴診器を選定するために、複数の企業が開発する聴診デバイスの情報収集と性能の比較検討を行い、入手可能なものについて購入・調査を行った。音の集音方式、データとしての格納方法、ノイズなど様々な角度から患者が自宅で測定するのに最適なデバイスの選定を実施した。実際にデータを取得することを目指したが、コロナウイルス感染症の影響により、当初計画していた患者の呼吸音データを取得することはできなかった。しかし、既存のデータベースを用いた呼吸音の分類システムの開発については、(1)周波数ピーク推定手法に基づくいびき様肺雑音の検出法の開発、(2)メルスペクトログラムとCNNによる肺音における異常音の分類システムの開発が順調に進んでいる。また、システム利用者のモニタリング継続を支援するための看護手法について、行動変容の視点からメタアナリシスを行うこととし、キーワード選定や文献収集が順調に進んでいる。 喀痰の色調と身体データ(体温、呼吸数、呼吸困難程度、経皮的酸素飽和度、CRP等の血液データ、抗菌薬の投与、胸部レントゲン撮影結果所見)の関連性に関する統計解析について検討を行ったが、こちらについてもコロナウイルス感染症の影響により、実際のデータ取得が難しく方法論の検討と文献調査のみ実施した。
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今後の研究の推進方策 |
呼吸疾患患者(喘息、肺炎、肺がん、慢性閉塞性肺疾患、胸水貯留、間質性肺炎など)を対象とした呼吸音データの収集を実現する。患者は電子聴診器と呼吸音データ送信システムのアプリケーションを搭載したTabletを利用し、2週間、毎日1回、呼吸音を自己録音し、送信する。これにより得られたデータと患者背景(年齢、性別、BMI)および病歴データ(疾患名、診断からの期間、現在の呼吸機能検査データ、最新の画像診断検査結果)、呼吸機能他覚・自覚データ(経皮的酸素飽和度、mMRCスケール)等を連結させ、機械学習法を活用して、特発性間質性肺炎に特異的な呼吸音であるfinecrackles (主に吸気時、背部・下肺野で聴取)を識別するアプリケーションを作成する。また、作成したアプリケーションを搭載し、かつ、システム利用者が呼吸音を含む増悪兆候の早期発見に有効なモニタリング項目を簡便に入力し、医療者に送信できるようシステムの原案を作成する。 アプリケーション開発のためには、既存のデータベースで作成した呼吸音の分類システムを得られたデータを用いてチューニングする必要がある。したがって、データが順調に収集できた場合には、呼吸音分類システムのチューニング、性能評価・検証を実施する。また、看護学の側面から、Tabletによるデータ送信がシステム利用者のセルフマネジメントにもたらす効果についても解析する予定である。 取得されたデータには、異常音かそうでないかのラベルがないため、複数の専門家協力のもとラベル付を実施する。これにより教師ありの機械学習手法の適用が可能になる。また、その過程で得られたデータについては、複数の評価者の一致度合いについて検討を行い、ラベル付を実施した専門家間の傾向分析も実施予定である。
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