研究課題/領域番号 |
20H04041
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
中里 浩一 日本体育大学, 保健医療学部, 教授 (00307993)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 骨格筋電気刺激 / 骨格筋萎縮 / サルコリピン / 単収縮 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
2020年度は大きく以下の2点に関して検討を行った。 1 坐骨神経切除誘発性骨格筋萎縮に対する低周波骨格筋電気刺激の効果の検討 坐骨神経切除は不活動モデルの一つであり、1週間程度でおよそ50%の筋萎縮が誘発される。 骨格筋電気刺激(ES)は有効な萎縮抑制方策とされるが、低周波での骨格筋電気刺激が筋萎縮を抑制するかは未解明である.10週齢の雄性SDラットを未処置群(Cont)、坐骨神経切除群(Den)、坐骨神経切除+ES群(Den+ES)に振り分けた。Den+ES群では坐骨神経切除直後よりESを10日間施した。 ES条件は30分間の単収縮(5Hz)とした。最後のESから24時間後に腓腹筋を採取した。結果的にES処理は坐骨神経切除による腓腹筋の萎縮を有意に抑制した。30分間の低周波刺激直後の腓腹筋を解析したところ、リン酸化AMPKの有意な増加が観察された。以上から従来筋タンパク質合成亢進には直接的な影響を与えないとされる低周波電気刺激であっても骨格筋萎縮抑制に効果的であると結論し、そのメカニズムの一つとしてAMPK活性化によるミトコンドリア生合成亢進の可能性が示唆された。 2 サルコリピンノックアウトマウスの作出 我々はC57Bl/6Jマウスの下腿にギプス固定を課すことでサルコリピンが高発現することを見出している。サルコリピンが骨格筋萎縮に関与するかを直接的に検討するためにサルコリピンをノックアウトした動物を作出し、ギプス固定による萎縮率の軽減あるいは増悪がみられるかを検討することとした。今年度はCRISPR/Cas9による遺伝子編集技術を用いて卵管内の受精卵に対して遺伝子改変を試みる(iGONAD法)こととした。結果的にノックアウト動物の作出に成功し、現在繁殖中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ渦にあって特に4月~6月は大学入構制限があり十分に実験を進めることができなかった。ただし今回見出した骨格筋電気刺激によるがんの全身症状の緩和およびサルコリピンノックアウト動物の作出成功は2021年度の大きな成果につながることを期待しており、実際2021年度は4月から精力的に実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に本研究において単収縮を30分間課す電気刺激(EMS)条件においてミトコンドリアの生合成に関連するAMPKのリン酸化亢進および坐骨神経切除による骨格筋萎縮の部分的な抑制が得られることを見出した。本年度の第一の目的は単収縮によるEMSが骨格筋萎縮抑制に有効であることを下記実験1によって示すことにある。2021年度に得られたもう一つの成果は遺伝子編集によってサルコリピンノックアウト(SlnKO)マウスを得たことにある。このSlnKOマウスを用いて骨格筋萎縮時に高発現するサルコリピンの役割の解明を目指すことを第二の目的とし下記実験2を行う。 (実験1:ミトコンドリア生合成を促す単収縮の骨格筋萎縮抑制への有効性検証)EMSの骨格筋萎縮抑制への有効性を明らかにするために、骨格筋萎縮モデルとしてがん悪液質および坐骨神経切除モデルにおいて、強縮および短収縮の二種類の刺激周波数を用いて電気刺激を課す。実験期間は10日間とする。強縮に関しては5分間2日おき、単収縮に関しては30分間を毎日課し、実験期間終了後解剖し筋湿重量および筋線維断面積を評価する。またミトコンドリア呼吸速度や酸化ストレス物質産生能などをみることでミトコンドリア機能を評価する。特に単収縮刺激の急性の効果を検討するためにRNAseqを行うことで骨格筋萎縮に有用なパスウェイの同定を行っていく。 (実験2:SlnKOマウスを用いた骨格筋萎縮抑制にサルコリピンが果たす役割の解明)我々は萎縮の程度が著しい坐骨神経切除モデルにおいてもサルコリピンが高発現することを見出した。サルコリピンは熱産生タンパク質であり骨格筋萎縮を増悪させる可能性がある。そこで我々が確立したサルコリピンノックアウトマウスを用いて、坐骨神経切除モデルにおける骨格筋萎縮が抑制されるかを検討する。
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