研究課題/領域番号 |
20H04048
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
前島 洋 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (60314746)
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研究分担者 |
尾崎 倫孝 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (80256510)
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
高松 泰行 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (40802096)
榊間 春利 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (10325780)
真先 敏弘 帝京科学大学, 医学教育センター, 教授 (00585028)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 脳卒中 / 神経栄養因子 / 運動療法 / 生体イメージング |
研究実績の概要 |
昨年度までに得られた所見として、トレッドミル運動、或いはα5サブユニットを含むGABA受容体の特異的阻害薬L-655,708投与の単独介入による脳出血後の運動機能回復は限定的であるが、両者を組み合わせた介入により相乗的な回復効果が確認されていた。本年度は、これらの個体から採取した脳・脊髄サンプルの解析を進め、併用介入群に生じた可塑性修飾について検証を行った。L-655,708投与により大脳皮質運動野BDNF発現の増強が認められた。加えて、併用介入群の脊髄においては、 シナプスや軸索の可塑性に関与する分子マーカーの発現増強が認められた。このことから、併用介入群の効果的な機能回復には、脳内だけでなく脊髄における可塑性修飾も重要であることが示唆された。 脳におけるBDNF発現の生体イメージング計測を目的に、BDNFのプロモーター域に蛍発光酵素Luciferase遺伝子を挿入したBDNF-Luc Tgマウスを繁殖、飼育した。このTgマウスを対象に脳深部の発光の検知を可能とする発光基質AkaLumine-HCl (TokeOni)を腹腔内投与後、脳領域の発光を運動介入後に経時的に定量する一連の手法を開発した。この生体脳イメージングの手法を用いて、トレッドミル運動がBDNF発現に与える効果について検証を行った。単回のトレッドミル運動後4-8時間内において脳領域における発光、即ちBDNF発現が増強され、更に2週間のトレッドミル運動の継続することで運動後のより早いタイミングにBDNF発現増強が生じることを確認した。 一方、この生体脳イメージングを脳出血モデルに対して応用する際に、これまでのステレオタキシックシステムを用いた微量コラゲナーゼ注入によるモデル作成において、計測脳領域の皮膚処理が発光に影響を与える問題が生じ、術時における頭部の皮膚切開、縫合部位について検討を要することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生体イメージングにおいて、当初は発光基質として汎用されているD-Luciferinを用いる予定であったが、D-Luciferin由来の発光は比較的表層の発光に留まり、脳、特に海馬等の脳深部における発光検知に対することから、脳深部発光の検知に優れた新規基質としてAkaLumine-HCl (TokeOni)使用した。同基質は深部発光の検知に優れる一方で、発光の経時的減衰が速く、これを克服するための運動等の刺激後の発光測定方法を新たに開発する必要が生じた。また、当初予定したBDNFのシグナル応答性プロモーターの下流に発光ルシフェラーゼ遺伝子をインサートしたアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた脳領域への遺伝子導入する手法に対して、同様の遺伝子特性を有するTgマウスを飼育、繁殖して生体脳イメージングに用いることが可能となった。これらの研究目的達成のための実験方法の修正を進めるに際して時間を要したが、本年度の目的である生体脳イメージング法をより汎用的な方法として確立するとともに運動刺激へ応答について計測するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究において、脳出血モデルラットに対するGABA受容体を阻害するL655,708 (0.5mg/kg)の長期的投与は大脳皮質におけるBDNFの発現を増強し、L655,708投与下におけるトレッドミル運動は麻痺側の運動機能を相乗的に回復させる所見を得た。一方、これまでBDNF-Luc Tgマウスを用いた生体脳イメージングを用いた運動介入効果に関する実験法を開発した。 本年度は以上の所見を統合し、BDNF-Luc Tgマウスを用いた脳出血モデルを作成し、脳出血による生体脳におけるBDNF発現の修飾、BDNF-Luc Tgマウス脳出血モデルにおけるL655,708の投与と運動による生体脳におけるBDNF発現の修飾について生体脳イメージングを用いて精査を進める。生体脳イメージングの利点として経時的に1個体の生体脳におけるBDNF発現を複数回に渡り追跡できる利点を有効に利用する。即ち、BDNF-Luc Tgマウス成体マウスを対象に深麻酔下にてステレオタキシック脳内インジェクションシステムを用いて、損傷側線条体、内包域に血管基底膜を破壊する酵素コラゲナーゼ(Type Ⅳ, 0.24U )を微量注入することにより脳出血片麻痺モデルを作成する。同脳出血モデルを対象にL655,708投与とトレッドミル運動による生体脳におけるBDNF発現修飾を経時的に複数のタイムポイントにおいて定量評価する。併せて、行動評価に基づくL655,708投与とトレッドミル運動介入による運動機能回復への効果とそれらの生体脳BDNF発現への効果における関連を精査することにより、これまでの脳出血モデルラットにおける脳組織における生化学的解析に基づく結果の検証に対して、BDNF-Luc Tgマウスを用いた生体脳において経時的に検証することを可能とする。
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