研究課題/領域番号 |
20H04064
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高木 英樹 筑波大学, 体育系, 教授 (80226753)
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研究分担者 |
角川 隆明 筑波大学, 体育系, 助教 (00740078)
中島 求 東京工業大学, 工学院, 教授 (20272669)
仙石 泰雄 筑波大学, 体育系, 准教授 (30375365)
下門 洋文 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 講師 (50757911)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水泳 / 流体力学 / バイオメカニクス / 流れの可視化 / コンピュータシミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は、フロントクロールを最大努力で泳ぐ際の手の運動学的指標、手の流体圧分布、手の推進力の関係について検討した。 本研究には24名の男子水泳選手が参加し、競技レベルは地域大会から全国大会の決勝までであった。試技は、無呼吸と最大努力で20mのフロントクロールを3回泳ぎ、そのうちの1回を解析用に選択した。手の流体力学的圧力分布を測定するために、各手に6個の小型圧力センサーを取り付け、手の実際の座標を得るために15個のモーションキャプチャカメラを水中に設置した。 分析の結果,平均泳速度は、手の速度(r = 0.881)、推進力(r = 0.751)、圧力力(r = 0.687)と正相関があった。手背の圧力は、手の速度(r = -0.720)、推進力(r = -0.656)、平均泳速度(r = -0.676)と非常に高い負の相関が見られた。逆に、手のひら圧は、手の速度、平均泳速度とは相関がなかった。しかし、推進力(r = 0.512)、手掌圧力(r = 0.736)、迎え角(r = 0.471)には正の相関が見られた。手掌と手背の平均圧力の絶対値を比較すると、手背の平均圧力が有意に高く、効果量も大きかった(d = 3.71)。 以上の結果から,泳速度が速いスイマーほど、手の速度は速く、手の推進力も大きかった。手背の圧力は、泳速度、手の速さ、手の推進力と有意な負の相関があった。一方、手のひらの圧力は、水泳速度および手の速度と有意な相関はなかったが、手の推進力および迎え角と有意な相関があった。また、掌圧と背圧の値を絶対値で比較すると、背圧は掌圧の2倍以上あり、手に作用する力に大きく影響することが示唆された。したがって、泳ぐスピードが速いスイマーは、手のスピードが速いために手背圧の減少が大きく、より大きな手推進力を発揮していると推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により年度当初は学内施設が利用できなかったり,研究対象者との接触を避けるため、実験が行えない状況が生じたが,年度後半は概ね計画通り実験を実施することができ,そららの研究成果をまとめて研究誌に投稿することができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度実施した研究では、各手部には圧力が一様に作用すると仮定し、各圧力センサーの値を各手部に作用する代表圧力値と定義した。しかし、実際には、手の表面の部位によって圧力は異なる。そのため、手のセグメントを細分化し、測定精度を向上させるためには、より多くのセンサーを使用する必要がある。しかし、現状ではセンサは有線であり、両手に多くのセンサを貼り付けると、泳ぐ動作の妨げになる可能性がある。そのため、高い測定精度と水泳者の負担軽減を両立する測定方法の開発が求められる。 また,フロントクロール泳法では、腕が脚よりも大きな推進力を発揮し、上腕、前腕、手のうち、手が最も大きな推進力を発揮するとされている(Toussaintら、2002;Samsonら、2017;高木ら、2021)。そのため、本年度の実験では、手以外のセグメントが発揮する力は無視できる程度であろうとの仮定で実験を行った。しかし、本実験の結果、ローリング動作やキック動作も手先の速度を上げるために不可欠な要素であることがわかった。また、Silveiraら(2017)は、下肢による蹴り出し動作がストローク長を増加させ、それが水泳速度に影響することを報告している。今後は、よりマクロな視点で水泳運動を捉え、どのようにハンドスピードを上げれば大きな手先推進力が得られるのかを解明していく必要があります。
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