前年度までに取得したデータを追加分析することで,疾走動作におけるハムストリングスを構成する二関節筋(大腿二頭筋,半膜様筋,半腱様筋)の筋腱動態(筋線維長,発揮張力,伸長速度)に影響する筋構造の特徴を詳細に分析した.その結果,先行研究で肉離れ予防に寄与すると言われている大腿二頭筋長頭の筋線維長の増加は,疾走動作中の力発揮能力を向上させ,また肉離れの発生要因となる筋線維の伸長も減少させることを明らかにした.そして,この研究成果を学術雑誌Sports Biomechanics(IF: 2.896)に掲載することができた.次に,筋腱動態に影響すると考えられる外側ハムストリングス(大腿二頭筋長頭)と内側ハムストリングス(半膜様筋)の停止点が大きく異なることの影響を検討するために,大腿二頭筋長頭と半膜様筋の停止点を移動させた筋骨格モデルを用いたキネマティクス的シミュレーションを実施した.その結果は,大腿二頭筋長頭と半膜様筋の筋腱動態の違いは,筋の付着位置の違いの影響よりも,筋構造の違いの影響の方が大きいことを示唆するものであった.さらに前年度までに実施した走動作の違いが筋腱動態に及ぼす影響とあわせると,大腿二頭筋長頭ハムストリングス肉離れの好発筋であることの一つの要因として,ハムストリングスの筋腱の構造的・機械的特性の筋間差であることを示すことができた.そしてハムストリングス肉離れの受傷リスク評価および予防トレーニングを構築するためには,ハムストリングス肉離れに関わる筋腱の構造的・機械的特性と走動作の特徴も測定し,総合的に選手の個別性を検討することが必要性であると考えられる.なお,全力疾走からの減速期における筋腱動態については,研究対象者を増やすことができたが,分析して結果をまとめるまでには至らなかったことは反省点である.なお本研究は,筑波大学体育系倫理委員会の承認を得た上で実施した.
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