研究課題/領域番号 |
20H04069
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 和俊 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30302813)
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研究分担者 |
宮田 紘平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30792171)
三浦 哲都 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (80723668)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 運動スキル / 認知バイアス / コーディネーション / 意思決定 |
研究実績の概要 |
今年度は、速さと正確性を同時に要求される運動課題ならびにリスク下における素早い意思決定を必要とする課題を用い、これらのパフォーマンス成否要因について実験的に検討した。はじめに、速さと正確性を同時に要求される運動課題として、野球の投球課題を用い、ボールの速度や回転に関わる8つのリリース変数の協調関係について検討した。その結果、ボールの初速度増大に伴い変数間の相補的協調性が低下することが明らかになった。このことは、速い球を正確に投げる際には、リリース時点から遡ったより早期のタイミングにおける身体協調が必要になることを示唆するものである。 また、速さと正確性が同時に要求される運動課題を継続的に遂行した際、各試行において生じた誤差情報が次の試行においてどのように利用されるのか検討した。本実験においては、課題を遂行する際の誤差修正方略を自己回帰モデルで定量化し、誤差の情報源として視覚フィードバックではなく筋運動感覚を用いた運動修正が可能になることを示した。本研究は、変動する環境下における無意識的な運動修正能力の定量化につながりうるものである。 さらに、運動意思決定に関する研究として、素早さと正確性が同時に要求される選択反応時間課題を用いた行動選択最適化に関する検討を行った。その結果、得点の異なる複数の目標に対する到達課題において、反応の遅れに伴って得点が低下するという状況下では、より高得点の課題に到達しようとして課題遂行が遅れ得点損失が生じてしまうという意思決定方略が確認された。この結果は、緊急な判断が求められる場合においても価値の異なる選択からより高い価値を選択しようとする認知バイアスが存在することを示している。 加えて、運動スキルの階層的構築の観点から、学習者における複数の「伸びしろ」に着目した指導の具体例について、共著にまとめ出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染症流行の影響により実験的研究は制限されたものの、遂行することのできた各研究について一部は論文が既に公刊され、それ以外についても学術誌に投稿する準備が進んでいる。さらに認知バイアスに関する和文解説の執筆が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、運動スキルの学習および制御に関わる個人差要因を、1)情動/筋緊張、心拍/呼吸、姿勢/体幹、2)リズム/協調(コーディネーション)、3)時空間知覚/制御、視覚/注意、4)意思決定、の4階層に分類し、階層間の関係を明らかにするとともに各媒介変数が運動学習の個人差に与える影響を明らかにしたうえで、運動学習における個人の「伸びしろ」を特定し、学習の支援環境構築を目指している。引き続き、多様な身体スキルを対象としてこれらの複数階層において特定可能な「パフォーマンスの伸びしろ」特定に努めることとする。この際、新型コロナウィルス感染症流行の動向に留意しつつ、ヒトを対象とした対面実験を遂行するとともに、感染防止の観点からオンライン実験プラットフォームの構築を進めることとする。
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