本研究ではスポーツにおける広範な衝撃条件に対応した脳振盪発生基準を構築することを目的とする.具体的には以下の4点に関して研究を行うことを目的としている. (1)マウスピース型衝撃センサによる実競技環境下における衝撃条件・診断情報統合データの継続収集, (2)世界唯一の次世代頭部ダミーとシミュレーションによる衝撃再現に基づく脳変形情報の取得,(3)衝撃条件・診断情報・脳変形挙動からなる脳震盪データベースの構築(4)機械学習により広範な衝撃条件に対応した脳震盪発生基準(人工知能モデル)を構築する.上記のうち(1)については,コロナウイルス禍による制約のため,実競技環境下での頭部衝撃計測は困難であった.そこで,前年度計測を行ったサッカーにおけるヘディングを対象としたマウスピース衝撃センサを用いた衝撃計測結果に基づき,衝撃シミュレーションをさらに実施し,他の競技環境下における頭部衝撃条件との比較を行い,一度のヘディング衝撃の場合は,脳振盪発生レベルに対して定量的に脳ひずみが小さいことを明らかにした.(2)については頚部筋緊張を考慮した有限要素モデルを用いてヘディングにおける脳ひずみへの影響について検討を行った.さらには,(4)の機械学習モデリングについては,時系列波形予測が可能なRNNの一種であるLSTMを用いて,脳内4部位の最大主ひずみ波形を高速に予測する機械学習手法を開発し,これによりアメリカンフットボールや自動車事故などの様々な衝撃条件における脳ひずみ波形を高精度かつ高速に計算可能な手法の開発を行った.
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