本研究ではスポーツにおける広範な衝撃条件に対応した脳振盪発生基準を構築することを目的とする.具体的には以下の4点に関して研究を行うことを目的として いる. (1)マウスピース型衝撃センサによる実競技環境下における衝撃条件・診断情報統合データの継続収集, (2)世界唯一の次世代頭部ダミーとシミュレーションによる衝撃再現に基づく脳変形情報の取得,(3)衝撃条件・診断情報・脳変形挙動からなる脳振盪データベースの構築(4)機械学習により広範な衝撃条件に対応した脳振盪発生基準(人工知能モデル)を構築する.今年度は特に(3)及び(4)にあたる研究について実施を行った.(3)に関して具体的には野球ボール衝突,対人衝突,床面衝突の各条件に関して多数のシミュレーションを実施し,頭部の剛体運動パラメータと脳変形挙動及び脳振盪発生有無のセットとなるデータセットを構築した.さらに,得られた脳の圧力波形と最大主ひずみ波形から各競技における脳変形挙動の特徴について考察した.(4)として,(3)で構築したデータセットに対して,波形の類似度及びマッピング手法を組み合わせることにより,DDTWとクラスター分析および主成分分析により,脳振盪例と非脳振盪例をよく分類できることを示した.さらに,上記の衝突シナリオごとの脳変形挙動の可視化と比較を行った結果,最大主ひずみ波形と脳圧力波形ではその発生メカニズムが異なり,頭部に多峰性の大きな角速度が発生するシナリオにおいては,ピーク値が大きな多峰性の最大主ひずみ波形が発生すること, 並進加速度により計算されるHICが大きくなるシナリオにおいて,ピークが大きな正の圧力波形が発生し,特に持続時間が短いケースにおいては高周波の振動成分が発生すること,それに加えて,持続時間が0.005sを下回るケースにおいて高周波の振動成分を含む負の圧力波形が発生することが示された.
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