本研究は,細胞適応を誘導するスイッチ(切替装置)の役割がカルシウムイオン(Ca2+)と活性酸素種(ROS)のダイナミクス(細胞質中の空間的・時間的な濃度変化の連続)にあるという仮説を検証する. 令和4年度では,特に過酸化水素(H2O2)のダイナミクスに着目した.過酸化水素は,活性酸素種の中でも半減期が長く,拡散しやすいユビキタスな分子であり,酸化還元シグナルの観点から,生理機能に最も影響力のある活性酸素の一つと考えられている.近年,細胞内過酸化水素を感知する生体センサーとして過酸化水素感受性蛍光タンパク質であるHyper7が開発された.本研究は,このバイオセンシングツールを用いて,生理的な環境下による細胞質過酸化水素イメージングのin vivoマウス骨格筋モデルを構築した.その結果,酸素需要供給バランスが破綻する心停止モデルでは,筋細胞内過酸化水素の蓄積が生じることを明らかにした.その一方,筋収縮後の過酸化水素レベルは,収縮強度(単収縮 vs強収縮)に依存するものの,筋疲労やカルシウムイオン蓄積が惹起される収縮条件においても,そのレベルは低いことが明らかになった.
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