研究課題/領域番号 |
20H04077
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
七五三木 聡 大阪大学, 全学教育推進機構, 教授 (20271033)
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研究分担者 |
呉屋 良真 びわこ成蹊スポーツ大学, スポーツ学部, 助手 (10879745)
青山 千紗 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80823939)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経修飾物質 / ノルアドレナリン / 視覚刺激検出能 / 一次視覚野 |
研究実績の概要 |
脳の情報処理機能は、動物が置かれた状況に応じてダイナミックに変化する。脳内の神経修飾物質が機能の調節に関与すると考えられており、アスリートにおける視覚運動パフォーマンスを最大化する上で、神経修飾物質による修飾作用のコントロールが必要不可欠である。そこで身体運動により脳幹(橋)の青斑核から脳全体に分泌されるノルアドレナリンが視覚機能に及ぼす影響を検討するために、縞(グレーティング)刺激の検出課題遂行中のラットの大脳皮質一次視覚野にノルアドレナリンβ受容体拮抗薬を直接投与し、視覚刺激検出能および一次視覚野ニューロンの視覚応答特性を検討した。その結果、β受容体拮抗薬は個体としての視覚刺激検出能(コントラスト感度)を改善することが明らかになった。β受容体拮抗薬は一次視覚野ニューロンの自発発火(ノイズ)の低下と、視覚応答(シグナル)の増大を引き起こすことで、自発発火に対する視覚応答の比率(シグナルノイズ比)を増強させてことから、これが視覚刺激検出能の改善につながったと考えられる。 一方、球技系アスリートのパフォーマンスに寄与する視覚関連要因の役割を明らかにするために、ヒトにおいて、2次元空間上を移動する動的視標をカーソルでインターセプトする視覚運動課題を実施し、眼球運動の役割を検討したところ、動的視標に向かうサッカード眼球運動の空間的精度が、サッカード後に取得される動的視標の視覚情報の精度を左右し、それにもとづくフィードバック運動制御に寄与することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
球技系アスリートのパフォーマンスに寄与する視覚関連要因の役割を明らかにするプロジェクトについては、現在、球技系アスリートの運動視能における種目特性が明らかになりつつあり、特に、特定視野の重要性が示されるなど、順調に進んでいる。また、視覚運動中の眼球運動の機能的役割についても、動的視標に向かうサッカードの重要性が明らかとなり、アスリートのパフォーマンス向上を意図したトレーニング法を開発する上で重要な手掛かりが得られている。 また、動物実験により、視覚情報処理における神経修飾物質の修飾作用の両義性(相反する効果)が示され、神経修飾物質の分泌量に応じた異なるタイプの受容体活性化が異なる効果を生じる可能性が明らかになった。そのため、神経修飾物質の分泌を促す処置においても、分泌量を考慮した適切な処置が必要となることが明らかとなり、神経メカニズムに基づく脳機能改善方略のためのエビデンスが着実に蓄積しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
球技系アスリートは、動的視標に視線を向けるサッカードや、動的視標の運動情報を処理する運動視の機能が重要や役割を果たす。すでに、こららの機能を計測する実験課題およびプロトコルは確立されており、それに基づいた実験により重要な知見が蓄積されつつあることから、今後は、サッカードや運動視に関わる大脳皮質の中枢に直接介入する実験を行い、視覚機能改善によるスポーツパフォーマンス改善方略の開発を試みる。
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