超高齢社会をむかえた我が国では、サルコペニアに代表する筋萎縮の予防は重要な課題である。近年、加齢による筋萎縮の原因として、筋幹細胞数の減少による再生能の低下が指摘されている。筋幹細胞の数はプロテアソーム系をはじめとする緻密な制御機構により調節されており、加齢などに伴ってこれらが破綻すると、サルコペニアなどにつながると予想される。そのため、骨格筋機能を保持するためには、いかに筋幹細胞を維持するかが重要な点であると考えられる。しかし、これまでに筋幹細胞の生体内での性質の解析は困難であったことからも、筋幹細胞の維持機構については不明な点が多い。本研究は、Pax7YFPノックインマウスを用いて筋幹細胞の維持機構を明らかにし、骨格筋再生の一端を解明することをめざす。 筋幹細胞の維持に必須であるPax7の標的遺伝子を同定するために、ChIP-sequence解析を行い、Pax7の新規標的遺伝子Tob1を同定した。Pax7との関連を調べるためにレポーターアッセイを行ったところ、Tob1のプロモーター領域にPax7が結合することを確認した。筋幹細胞の初代培養系でTob1を過剰発現させると、Pax7発現が増加し未分化状態を維持した。逆に、Tob1を抑制すると筋分化マーカーであるMyogeninの発現が亢進し、筋分化が進行することが分かった。これらの結果をもとに、Tob1ノックアウト(KO)マウスを用いて筋再生実験を行ったところ、KOマウスではコントロールと比較して筋再生を促すことを突き止めた。これは、Tob1を抑制すると筋分化を促した上記の初代培養実験の結果をサポートしていた。さらに筋幹細胞におけるTob1のメカニズムを探索すると、Tob1は細胞周期を負に制御し、細胞増殖のブレーキ役を担っていることが分かり、これによりKOマウスでは筋再生を促進したことが示唆された。
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