骨格筋の萎縮は生活の質の低下に直結するため、その機序を解明して予防法を確立することが求められている。申請者はこれまで、筋萎縮を引き起こす新規因子を網羅的に探索した結果、神経発生やガン発生に関わるMusashi2(Msi2)が骨格筋の萎縮とともに発現低下することを見出した。Msi2は特定のmRNAに結合してその発現量を調節し、細胞が分化するか否かを決める運命決定因子として発見されたが、骨格筋での働きは不明であった。 Msi2は代謝能力と疲労耐性に優れる遅筋タイプの骨格筋でその発現量が多く、また、組織学的に筋線維タイプで発現量を比較すると速筋でありながら遅筋の性質に近いType IIa線維で発現が強かった。Msi2の働きを明らかにするため、Msi2を欠損したマウスの骨格筋を解析したところ、Msi2欠損マウスでは野生型マウスに比べてヒラメ筋で萎縮しているだけでなく、通常は赤い色が白く変色していた。Msi2欠損マウスでは耐糖能の低下と活動量の減少が観察された。さらにType IIa線維数が減少して、ミトコンドリア量の低下と筋の発揮張力の低下が認められた。一方で、Msi2遺伝子を骨格筋からクローニングし、エレクトロポレーション法によってマウス前脛骨筋にMsi2を遺伝子導入したところ、ミトコンドリアマーカーと酸素結合タンパク質であるミオグロビンタンパク質がMsi2過剰発現によって増加した。さらに、Msi2が制御する分子機序を明らかにするために、RNAシーケンスによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、Msi2の欠損によって変化する遺伝子を同定し、続いてCLIP-PCR法によってMsi2が結合しているmRNAを発見した。 以上のように、Msi2による遺伝子発現調節は骨格筋の量と質を制御していることが明らかとなり、Msi2は骨格筋の恒常性に必須な新規因子であることが示唆された。
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