研究課題
骨格筋はエネルギー代謝を担う主要な臓器であるが,その調節には液性因子による外的刺激が大きく影響を及ぼすことがわかってきたものの詳細は不明である。一方,腸内細菌が,血液成分に影響を与え,全身の臓器機能を修飾することが示唆されている。本研究は,腸内細菌叢,血液中胆汁酸,骨格筋代謝の関係を,動物,培養細胞,ヒトを対象とした研究により検討した。運動を習慣化させたマウスの便を無菌マウス(レシピエント)へ移植したところ,安静マウスの便を移植したレシピエントと比較して,腸内細菌5属の割合が高値,50属の割合が低値であった。さらに,高脂肪食条件下において,運動マウス由来のレシピエントは血糖,血漿インスリンの上昇が緩やかであり,耐糖能の改善がみられた。このメカニズムを探索するため,骨格筋における代謝因子発現の網羅的解析を行い,発現プロファイルを得た。血漿胆汁酸組成を検討したところ,移植一週間後,運動マウス由来のレシピエントにおいて,コール酸,ミュリコール酸の遊離型が高値であり,タウリン抱合型が低値であった。これら胆汁酸濃度と腸内細菌組成の間に,有意な相関がみられたことから,運動による腸内細菌叢変化が,胆汁酸の脱抱合を促進したことが考えられる。したがって,腸内環境が骨格筋代謝に干渉することが示唆され,臓器連関の観点からさらなる検証をすべき課題が示された。培養細胞を用いた試験においては,本試験に向けた胆汁酸の至適濃度について検討した。またヒトにおいても血液胆汁酸の検討を進めるため,実施中の疫学研究で収集された血液検体,基礎情報を解析するための準備を進めた。
3: やや遅れている
動物モデル試験において,骨格筋代謝因子の発現プロファイルを得たものの,影響を受けたシグナル伝達系,標的因子の抽出など詳細な解析は未達である。また,機器の故障等の影響により,予定していた遺伝子発現解析を完了することが出来なかった。
動物モデル試験において,骨格筋代謝能を評価するため,発現プロファイルの解析,シグナル因子の活性レベルの解析を行う。これらの結果と,腸内細菌,血漿胆汁酸組成との関連について,ネットワーク解析等を駆使しながら,腸-循環-骨格筋の連関について考察する。また,マウス由来骨格筋細胞を用いて,胆汁酸組成の違いが,糖取り込み能,インスリン依存・非依存糖代謝経路に及ぼす影響を評価する。ヒト血漿中の胆汁酸組成と身体活動強度・量の関連についても検証する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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