研究課題/領域番号 |
20H04092
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤井 進也 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40773817)
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研究分担者 |
中島 振一郎 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60383866)
野田 賀大 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任准教授 (20807226)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽家 / 脳機能 / 音楽機能 / リズム / 認知機能 / MRS / TMS-EEG / ドラマー |
研究実績の概要 |
音楽家の脳機能の解明を目的とし、音楽リズム処理機能と精神疾患の関連性、音楽リズム処理や和音処理機能の神経基盤、音楽演奏評価と視覚情報の関連性、音楽家の身体運動制御やドラマージストニアの身体症状の解明等、以下(1)-(7)の研究を推進した。(1) 前年度に引き続き、研究分担者と連携してマルチモーダル脳機能イメージング手法(核磁気共鳴画像法 [MRI]、核磁気共鳴スペクトロスコピー法 [MRS]、経頭蓋磁気刺激[TMS]-高解像度脳波[EEG]の同時計測法 [TMS-EEG])を用いた実験調査を継続して推進した。(2) 精神疾患、特に統合失調症患者の音楽リズム機能をハーバードビート評価テスト(H-BAT)を用いて評価し、治療抵抗性、精神症状、認知機能との関連性を調査し、患者の認知機能の低下が音楽リズム機能の低下と関連していること、及び、治療抵抗性によって音楽リズム生成機能に差異があることを明らかにした。(3) 音楽リズム機能とMRSで評価した脳内グルタミン酸濃度との関連性についてデータ分析を進めた。(4) 協和音の嗜好性と安静時脳機能ネットワークの関連性について、左側坐核ー右上頭頂回、前帯状回ー後上側頭回の安静時脳機能ネットワークが協和音の嗜好性に関連している可能性を得た。(5)演奏評価判断中の視聴覚情報処理過程について調査し、演奏評価判断時の視聴覚情報処理過程が音楽経験によって異なる可能性を得た。(6)ドラマー・パーカッショニストのリズム生成機能や音楽家のジストニア症状とリズム同期誤差・筋活動の関連性について調査・分析した。(7)その他、音楽リズムと身体運動の共鳴をテーマとし、音楽リズムと身体運動に関する研究が人類の起源・脳・身体機能の解明にもたらす意義について、総説・解説記事をまとめて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績欄で述べた(1)-(7)の成果を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」と判断した。前年度に引き続き、研究分担者と連携してマルチモーダル脳機能イメージング(MRI、MRS、TMS-EEG)を用いた実験調査を推進できた点、統合失調症患者の音楽リズム機能について治療抵抗性、精神症状、認知機能との関連性を調査し興味深い知見を得た点、音楽リズム機能と脳内グルタミン酸濃度との関連性についてデータ分析を推進できた点、協和音の嗜好性と安静時脳機能ネットワークの関連性を調査できた点、演奏評価判断中の視聴覚情報処理過程についての調査を推進できた点、ドラマー・パーカッショニストのリズム生成機能や音楽家のジストニア症状について調査・分析を推進できた点、音楽リズムと脳・身体の関連性についての総説・解説記事を発表できた点など、現在までの進捗状況を俯瞰し、音楽家の脳機能、ヒトの音楽行為の脳・身体メカニズムの解明につながる成果を得ることができたため、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針として、まずはマルチモーダル脳機能イメージングを用いた実験調査を引き続き推進する。多様な音楽経験を持つ健常者の音楽機能と認知機能データに加え、精神疾患患者の音楽機能と認知機能について、データを継続的に取得しつつ分析を進める。特に本年度は、研究成果の論文発表を目指して、音楽機能と認知機能の関連性に関する更なるデータ分析、マルチモーダル脳機能イメージングデータとの関連性に関するデータ分析を重点的に推進する。音楽リズム機能を評価するハーバードビート評価テスト(Harvard Beat Assessment Test: H-BAT)のデータ分析に加え、ピッチ方向識別課題、和音判別課題、バルセロナ式音楽報酬質問紙(BMRQ)等の音楽機能評価スコアに関するデータ分析も併せて推進する。現在までに得られた統合失調症患者の音楽リズム機能に関する成果や、音楽リズム機能と脳内グルタミン酸濃度との関連性については論文発表を目指す。演奏評価判断時の視聴覚情報処理過程、ドラマーやパーカッショニスト、ジストニア患者のリズム生成機能に関しても、データ分析や追加実験を行いつつ、学会・論文発表を目指して研究を推進する。2022年度は、米国オレゴンにて開催される北米音楽知覚認知学会(Society for Music Perception and Cognition: SMPC)にて研究成果を発表する予定である。音楽家の脳機能、ヒトの音楽行為の背景にある脳・身体メカニズムの解明に向け、今後更に精力的に研究を推進する方策である。
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