脳卒中片麻痺患者では運動、感覚、高次機能障害に起因するバランス低下がみられる。感覚入力信号に外部からノイズ波形を付加することで、確率論的に入力信号が感覚閾値を超えて知覚しやすくなることが示唆されている。前庭系に対してこのような感覚入力を変調するノイズ前庭電気刺激を用いることで、脳卒中患者の静的立位バランスにおける視覚代償は改善するが、歩行などの動的バランスに対する影響は明らかではない。このため、ノイズ電気刺激が動的バランスに与える影響を明らかにする目的で研究を実施した。 脳卒中患者(74.3歳)を対象としてノイズ前庭電気刺激による介入が動的バランスに与える効果を検討した。各被験者の感覚閾値の1%(偽刺激)または70%が最大電流強度となるようにノイズ前庭電気刺激を設定した。3週間の期間を設定し、5日/週として1週ずつ介入期①→ウォッシュアウト期→介入期②として設定した。介入期には、通常のリハビリテーションに加えて、15分/日の70%刺激あるいは偽刺激を介入期①または②にランダムに割り当てて実施した。測定はTimed up and Goテスト、10m歩行速度とし、それぞれについて介入期①の前後、介入期②の前後の計4回実施した。結果、70%刺激と偽刺激に有意な介入効果は見られなかった。前庭系のみに対するノイズ電気刺激による継続的な介入は、静的立位バランスの改善を改善させることが報告されているものの、今回の研究結果から動的バランスに対する改善効果は見られないことが示唆された。
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