研究課題/領域番号 |
20H04098
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 公則 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (80381276)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Paneth細胞 / αディフェンシン / 腸内細菌 / 共生 / 先制医療 |
研究実績の概要 |
本研究は、胎児期から乳幼児期における腸内細菌叢制御に関与する因子であるαディフェンシンを分泌するPaneth細胞の発達異常が、腸内細菌叢形成の破綻を誘導し疾患リスク上昇に関与するとの仮説を立て、そのメカニズムを栄養制御モデルマウスや腸内細菌叢破綻モデルを用いて細胞・分子レベルで証明し、Paneth細胞機能の修復による腸内環境制御機構の正常化を標的とした疾患予防・治療戦略を提案することを目的とする。2021年度は、高脂肪食を摂取した母親由来の子マウス群で示されたαディフェンシン低下に伴う腸内細菌叢の破綻が、αディフェンシン低下そのものに起因するのかを明確にするために、遺伝子的にαディフェンシンを低下させた母親マウス(αDLowM)より生まれた子供(αDLowM-C)のαディフェンシン分泌量測定と腸内細菌叢解析および体重測定を行った。αDLowMの腸内細菌叢は、αディフェンシン正常母親マウス(αDNorM)と比較してβ多様性において異なる分布を示し、腸内細菌叢の破綻(dysbiosis)が誘導されていた。αDLowM-Cのαディフェンシン分泌量は、αDNorMから生まれた子(αDNorM-C)と比較して著しく低下していた。また、αDLowM-Cの腸内細菌叢はαDNorM-Cと比較してβ多様性において異なる分布を示すdysbiosisが誘導されていた。αDLowM-Cの体重は6週齢おいてαDNorM-Cと比較して低かった。以上より、母親のαディフェンシン低下による腸内細菌叢破綻は、子のαディフェンシンを低下させdysbiosiを誘導することが示され、さらに子の低体重誘導に関与する可能性を示した。また、Paneth細胞の顆粒分泌機能評価可能なエンテロイド生体外可視化ライブイメージング解析法により、母親のαディフェンシン分泌量を増加させる食成分の候補が複数抽出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、母親の栄養制御マウスと遺伝子改変マウスによる腸内細菌叢破綻モデル由来の子のPaneth細胞の発達が制御する腸内細菌叢形成メカニズムと疾患のリスク素因発生に関与するメカニズムの解析は予定どおり進行している。また、モデルマウスより得られた結果に基づく仮説をヒトにおいて検証・解析するために、ヒト母子の便サンプルによるαディフェンシン分泌量測定、腸内細菌叢解析の準備も順調に進行している。さらに、マイクロインジェクション法による可視化評価システムの確立により、αディフェンシン分泌量を増進する介入因子候補物質の評価・抽出も計画どおりに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、研究実施計画に基づき、Paneth細胞の発達が制御する早期ライフステージ腸内環境の形成とその分子メカニズムの解明を目指す。母親の栄養を制御したモデルマウスと遺伝子的にαディフェンシンを低下させた母親マウスを用いて、腸内細菌叢が破綻した母親から生まれた子の各発達段階においてPaneth細胞が制御する腸内細菌叢形成メカニズムと疾患リスク素因発生に関与するメカニズムをさらに組織・細胞および分子・遺伝子レベルでの解析を推進する。また、ヒト母子の便を用いた解析により、母親のαディフェンシン分泌量が子の腸内環境に及ぼす影響を明らかにする。さらに、樹立したエンテロイド生体外可視化ライブイメージング解析によりPaneth細胞活性化および修復効果を持つ成分をさらに抽出し、Paneth細胞・αディフェンシンを標的とした腸内環境の形成に関与する介入因子の同定を目指す。
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