研究課題/領域番号 |
20H04105
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神野 尚三 九州大学, 医学研究院, 教授 (10325524)
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研究分担者 |
古江 秀昌 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (20304884)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オリゴデンドロサイト / 加齢 / 海馬 / ストレスレジリエンス / うつ病 |
研究実績の概要 |
近年、うつ病の患者数が増加傾向にある。厚生労働省の調査では、男性では40歳代、女性では40から60歳代で患者数が多いことが報告されており、加齢に伴いストレスレジリエンス (ストレスに対する抵抗性と回復力) が低下する可能性が示唆されるが、そのメカニズムは不明である。本年度の研究では、中枢神経系のグリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトに着目し、ストレスレジリエンスのへの関与を検討した。若齢マウスに軽度の拘束ストレス (1回6時間、週2回、計9回) を負荷し、強制水泳試験を行ったところ、うつ様行動は認められなかった。一方で、同じ強度のストレスを与えた加齢マウスでは、うつ様行動が認められた。免疫組織化学的解析では、ストレスを負荷した加齢マウスでは、コントロール群の加齢マウスに比較して、海馬のオリゴデンドロサイトの密度が減少していた。RT-qPCRでは、ストレスを負荷した加齢マウスにおいて、海馬のオリゴデンドロサイト関連遺伝子やミエリン関連遺伝子の一部で発現レベルが低下していた。また、ウエスタンブロットでは、ストレスを負荷した加齢マウスにおいて、海馬のミエリン塩基性タンパク質の発現レベルが低下していた。一方で、若齢マウスでは、ストレスによるオリゴデンドロサイトの減少や、ミエリン関連分子の発現変動は認められなかった。最後に、ストレスを負荷した加齢マウスに対し、オリゴデンドロサイトの増殖を促進するベンズトロピン (ムスカリン受容体拮抗薬) を投与したところ、うつ様行動の減少とミエリン関連遺伝子の発現上昇が認められた。以上の結果は、加齢によるストレスレジリエンスの低下には、海馬のオリゴデンドロサイトの機能不全が関与していることを示唆するものであり、オリゴデンドロサイトに着目した新たなうつ病対策の可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢によってストレスレジリエンスが低下するメカニズムについて、加齢マウスと若齢マウスの比較に基づく研究に取り組み、オリゴデンドロサイトの加齢変化や、関連遺伝子の同定、ベンゾトロピンによる実験的治療に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
実験1:老化によってストレスからの回復力が低下するメカニズムの解析 社会的敗北ストレスに感受性を示した若齢マウスと加齢マウスを用いて、抗うつ薬の投与やモノアミン系投射路の活性化などを行い、抗うつ効果が加齢マウスで低下するモデルを得る。(1) セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (デュロキセチン) を投与する。(2) SERT-Creマウスの縫線核にアデノ随伴ウィルス (AAV) を用いてhM3Dq (designer receptors exclusively activated by designer drug, DREADD) を導入する。4週間後、clozapine N-oxideを投与し、セロトニン作動性投射路を活性化する。(3) TH-Creマウスの青斑核にAAVを用いてhM3Dqを導入し、CNOによってノルアドレナリン作動性投射路の活性化を行う。 実験2:ニッチの改変によるストレスレジリエンスの回復実験 加齢マウスのニッチの改変を行った後、社会的敗北ストレスに暴露し、ストレス感受性の変化を解析する。(1) chABCもしくはEndo-N を海馬CA1領域に注入し、コンドロイチン硫酸やポリシアル酸などのニッチを薬理学的に分解する。(2) AAVを用いて、海馬CA1領域にコンドロイチン硫酸合成酵素 (CSGalNacT1, CSGalNacT2) やポリシアル酸合成酵素 (ST8SIA2, ST8SIA4) を導入し、ニッチの過剰発現を行う。(3) 比較のため、オリゴデンドロサイトの分化を促進するベンゾトロピンを投与し、オリゴデンドロサイト新生とミエリン形成を促進する。これらから、加齢マウスのストレスに対する抵抗性の向上やストレスからの回復力の改善に関わるメカニズムを明らかにする。
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