研究課題/領域番号 |
20H04108
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
日野 信次朗 熊本大学, 発生医学研究所, 准教授 (00448523)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リボフラビン / エピゲノム / 脂肪組織 / ヒストン修飾 / フラボタンパク質 |
研究実績の概要 |
必須栄養素であるリボフラビン(Rf,ビタミンB2)の摂取や代謝状況がエピゲノム形成に及ぼす影響を明らかにし、その体質形成における役割を解明することを目的として研究を実施している。細胞内に取り込まれたRfは、riboflavin kinase(RFK)とFAD synthetase(FADS)によりフラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)へ順次変換される。本課題開始以前に、RFKがFAD合成の律速酵素であることを見出し、Rf代謝不全モデルとして脂肪組織特異的RFK欠損マウスを作製した(RFK-adKO)。 本年度は、①RFK-adKOマウスの詳細な表現型解析、②RF応答性遺伝子の同定、③脂肪組織を用いたフラビン代謝物定量法の確立、を行った。その結果、RFK-adKOマウスの脂肪組織では野生型と比較して形態等の表現型変化や顕著な遺伝子発現変化を来すことがわかった。注目すべきことに、Rf代謝不全が表現型や遺伝子発現パターンに及ぼす影響は、腹腔内、皮下及び肩胛骨間等の脂肪組織部位によって大きく異なることが明らかとなった。また、フラビン代謝物を組織から効率的に抽出する手法を確立し、RFK-adKOマウスで各代謝物濃度が顕著に低下していることを確認した。 これらの成果を踏まえて、今後はRf応答性遺伝子におけるエピゲノム変化とその制御メカニズムについて、組織部位間比較をしつつ検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①RFK-adKOマウスの詳細な表現型解析 研究開始までに、RFK-adKOマウスでは高脂肪食を給与した際に、肥満になりにくいことがわかっていた。本年度は、通常食下での表現型解析や脂肪部位間比較を行った。その結果、通常食下でも脂肪組織形態に変化を来すことがわかった。興味深いことに腹腔内及び肩胛骨間脂肪組織ではRf代謝不全が形態や大きさに及ぼす影響が明確に異なっていた。 ②Rf応答性遺伝子の同定 Rf依存性エピゲノム形成の仕組みを解明する目的で、RNA-seq法によりRf応答遺伝子の同定を行った。その結果、Rf代謝不全により発現上昇及び低下を来す遺伝子が多数同定された。また、表現型の違いと呼応するように、腹腔内と肩胛骨間ではRf応答遺伝子が大きく異なっていた。これらの結果は、Rfの組織恒常性やエピゲノム制御における役割が部位によって異なることを示唆している。また、RNA-seqのデータを元に、脂肪部位選択的に発現するフラビン代謝物結合タンパク質(フラボタンパク質)を同定した。 ③脂肪組織を用いたフラビン代謝物定量法の確立 脂肪組織におけるフラビン代謝物の動態を正確に定量解析する方法を検討した。様々な組織破砕法、抽出バッファーの検討を行い、至適条件を決定した。さらに、HPLCの移動相、流速等の条件を検討した結果、脂肪組織のRf/FMN/FADを定量的に評価する方法を確立できた。この方法に基づきマウス組織の解析を行ったところ、Rf代謝不全によりフラビン代謝物が顕著に減少していることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
Rfの脂肪組織部位による役割の違いを考慮して、そのエピゲノム制御メカニズムを明らかにする。また、RNA-seqやフラビン代謝物計測の結果から、脂肪細胞以外の細胞種の存在がデータに影響を与えることがわかった。そこで、今後は組織そのものの解析に加えて、脂肪細胞や脂肪前駆細胞を単離・濃縮する試験も合わせて実施する。 ① Rf依存性エピゲノムの解明 前年度にマウス脂肪組織を用いたヒストン抽出と修飾ヒストンの解析法を検討した。その成果を踏まえてRFK-adKOマウスにおけるヒストン修飾の変化をプロテオミクスやウェスタンブロット法により解析し、Rf変動とヒストン修飾の関係を明らかにする。この方法により同定されたヒストン修飾について、ChIP-seqやcut and tag法により網羅的エピゲノム解析を行う。得られたエピゲノムデータを用いてパスウェイ・オントロジー解析等により、エピゲノム変化と表現型との関連づけを行う。 ② Rf代謝とエピゲノムを繋ぐ因子の同定と機能解析 前年度に得たRNA-seqデータを元に、Rf応答性遺伝子の転写調節に関わる因子の同定を行う。また、RNA-seqデータの脂肪部位間比較により、組織選択的に発現するフラボタンパク質を同定している。これらのタンパク質について、脂肪組織のエピゲノム形成、遺伝子制御及び代謝表現型形成における役割を検討する。
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