研究課題/領域番号 |
20H04111
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
野村 憲吾 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10734519)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 塩味 |
研究実績の概要 |
食塩(NaCl)摂取過多は循環器疾患の重大なリスク因子である。日本人の食塩摂取量(10.7g)は日本高血圧学会の減塩目標値(6g)を大きく上回っているが、その根本原因はNaClが“ 美味しい”ことにある。食べ物の味は、舌の味細胞の活性化が、味神経を通じて脳へ伝達されることで感じられる。NaClの“美味しい味”は、舌のNaセンサーである上 皮型Naチャネル(ENaC)を介して感じるが、その下流機構は不明である。そこで本研究では、舌の味蕾でENaCからのシグナルを脳へ伝達するメカニズムを明らかにするとともに、その情報を受けてNaClの摂取行動を制御するための中枢神経回路基盤の解明に取り組んでいる。 本年度は、中枢神経における塩味応答ニューロンの探索をおこなった。昨年度の計画で同定した塩味応答領域において、in vivoイメージングを用いた塩味応答様式の解析をおこなったとともに、塩味刺激に応答したニューロンを標識する実験をおこなった。その遺伝子発現パターンを解析したと同時に、この脳領域におけるすべての細胞(塩味非応答細胞を含む)の遺伝子発現パターンも解析し、塩味応答ニューロンを細胞カタログの中から絞り込むための解析を進めた。これに加えて、生理学的な状態によって塩味に対する好き/嫌いが調節される現象に関わる神経機構の解析をおこなった。生理学的な状態(塩分の欠乏/過剰など)に応答する脳内領域を網羅的に探索したのち、光によって特定の神経細胞の活動を選択的・可逆的に活性化する遺伝子ツールを用いて、その脳内領域の活動を制御し、塩味に対する嗜好性行動の変化を解析する行動実験をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の要であった、特定の脳領域の1細胞ごとの遺伝子発現パターン解析を数千細胞に対して網羅的に実施するトランスクリプトーム解析について、技術の確立に成功した。今後この技術を用いることで、塩味応答ニューロンの同定を進めることができる。 また、生理学的な状態によって塩味に対する好き/嫌いが調節される現象に関わる神経機構の解析においても、予想外ながら興味深い知見が得られており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も計画通り、本研究計画において作出した『光を用いて塩味を創出するマウス』を用いて脳内でナトリウムの味情報を伝達する神経機構の解析を進めていく。生理学的な状態によって塩味に対する好き/嫌いが調節される現象に関わる神経機構の解析についても、トランスクリプトーム解析を用いた検討も追加し、生理学的な状態と味覚情報の統合機構の解明を目指す。
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