本研究は、塩分過剰摂取の原因となる「美味しい」塩味が生じる末梢細胞メカニズムを解明し、その情報を受けて行動に影響を与える中枢神経回路のロジックを明らかにすることを目的として実施した。具体的には、下記の4つの計画:(Ⅰ)末梢の快塩味細胞の同定と、その情報伝達機構の解明(Ⅱ)光遺伝学を用いて人工的に塩味を創出する技術の開発、(Ⅲ)光標識技術を活用した、ナトリウム味応答ニューロンの同定、(Ⅳ)食塩の摂取をコントロールするための味応答神経の探索に取り組んだ。まず(Ⅰ)末梢塩味細胞の同定と、その情報伝達機構の解明では、 『仮説:ENaCとCALHMを共発現する細胞が、ナトリウム味をコードする』を検証し、この細胞がENaCを介したNa流入に伴って活動電位を生じ、CALHMチャネルを介した電位依存性ATP放出をおこなうことで、ATP受容体を発現する味神経へ情報を伝達することでナトリウム味を駆動することを明らかにした。次に、(Ⅱ)光を用いて人工的に塩味を創出する技術の開発では、光遺伝学を用い、上記の実験で同定した細胞がナトリウム味を生みだす細胞であることを検証した。(Ⅲ)活動ニューロンの光標識法を活用した、Na応答ニューロンの同定では、特殊蛍光タンパク質を活用した活動依存的な細胞標識法の開発、および味覚応答領域の神経細胞を対象としたシングルセルトランスクリプトーム解析を実施し、ナトリウム味を担う神経細胞の探索を進めた。最後に(Ⅳ)食塩の摂取を制御するための味応答神経の探索では、光遺伝学を用いた回路選択的な神経活動の操作をおこない、塩味嗜好行動を担う神経回路を探索した。以上の実験をおこない、末梢組織におけるナトリウム感知細胞を同定したとともに、ナトリウム味に応答した嗜好性行動を担う神経細胞と神経回路の解明を進めた。
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