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2020 年度 実績報告書

細胞の質的変化に基づく肺組織老化・疾患促進機構の研究:細胞老化の視点から

研究課題

研究課題/領域番号 20H04116
研究機関国立研究開発法人国立長寿医療研究センター

研究代表者

杉本 昌隆  国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, ジェロサイエンス研究センター, 副部長 (50426491)

研究分担者 佐藤 匡  順天堂大学, 医学部, 准教授 (10596993)
杉本 和史  三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (60378370)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード細胞老化 / 肺気腫 / 転移性肺がん / セノリシス / COPD
研究実績の概要

本研究は、加齢による細胞の質的変化が組織老化や疾患を促進する機構を明らかにすることにより、老化細胞の機能を標的とした呼吸器疾患に対する革新的な創薬基盤を確立することを目的とする。老化は様々な疾患のリスクを増大させる。現在、世界で死因の上位を占めている呼吸器疾患も同様に加齢とともに罹患率が上昇するが、その原因については明らかになっていない。代表者は以前に、独自に樹立した老化細胞除去マウス(ARF-DTRマウス)を利用して、肺組織加齢性変化に細胞老化が重要な役割を持つことを明らかにした。
本研究計画では肺組織内の老化細胞に着目し、それらが呼吸器疾患の発症や進行にどの様に関与するのか、複数の呼吸器疾患モデル(①肺気腫モデル、②転移性肺がんモデル)を用いて解析を行った。
当該年度における①肺気腫モデルを用いた解析では、老化細胞の除去と肺組織幹・前駆細胞の移植を同時に行うことにより、気腫肺の機能的再建が可能であることを明らかにした。このことから細胞老化は障害肺の組織再生に影響を与えることが示唆された。肺組織における老化細胞と組織幹・前駆細胞の機能的相互作用についてさらに詳細な解析を行うために、新たな遺伝子改変マウスの作製を開始した。
転移性肺がんモデルの解析においては、当該年度までに老化細胞依存的に可溶型Eカドヘリン(seCad)が産生されること、およびseCadがメラノーマ細胞に直接作用して転移を促進する活性を持つことを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

①肺気腫モデルの解析:肺組織から老化細胞を除去可能なマウス(ARF-DTRマウス)にエラスターゼにより肺気腫を誘導し、老化細胞の除去と肺組織幹・前駆細胞の移植を行った。移植する肺組織幹・前駆細胞として本研究では先行研究により肺線維症モデルで有効性が報告されている肺スフェロイド細胞(LSC)を用いた。当該年度は、まずLSCが移植後4週間以上に渡り肺組織に生着することを確認した。気腫マウスにおいて老化細胞の除去もしくはLSC移植だけでは呼吸機能の有意な回復は認められなかったが、両者を併用したマウスでは呼吸機能に回復が認められたことから、気腫肺の機能的再建が可能であることが示唆された。呼吸器疾患誘導実験設備の整備に遅延が生じ、計画に遅れが生じた。
②転移性肺がんモデルの解析:予備実験により肺組織の老化細胞が非細胞自律的にメラノーマの肺転移を促進すること、および老化細胞依存的に肺組織で変動する液性因子の解析を行っていた。当該年度は、抗体アレイにより肺組織で老化細胞依存的に産生される因子として可溶性Eカドヘリン(seCad)を同定した。マトリゲルコートしたトランスウェルを用い、試験管内でseCadががん細胞(メラノーマ細胞)の浸潤能に及ぼす影響について調べたところ、seCadで刺激したメラノーマ細胞は浸潤能が有意に上昇することがわかった。がん細胞の浸潤には、細胞外プロテアーゼの発現が重要であることが先行研究により明らかになっている。細胞外プロテアーゼの発現について解析を行ったところ、seCadはメラノーマ細胞においてマトリックスメタロプロテアーゼ(Mmp)2および14の発現を誘導することを見出した。これらMmpの阻害剤存在下ではseCadによる浸潤能増加が見られなかったことから、seCadによるMmp発現誘導が老化細胞によるがん細胞の肺転移に重要であることが示唆された。

今後の研究の推進方策

現在、肺気腫に対する有効な治療法は確立されていないが、当該年度に行った研究結果からは、老化細胞の除去と組織幹・前駆細胞移植を併用することにより気腫肺を機能的に再建することが可能であることが示唆された。これらの結果は肺組織内で細胞老化と組織再生の機能的相互作用があることを示唆しており、今後この作用点について明らかにすることが肺気腫の治療法の確立に重要であると考えられる。この課題にアプローチするために、肺組織再生を評価するための新たなモデルマウスの作製を行う。また、試験管内モデルを用いて細胞老化と肺組織幹・前駆細胞の相互作用についても解析を行う。
転移性肺がんモデルについては、当初の計画よりも順調に進捗しており、一部計画を前倒して進めている。メラノーマの肺転移におけるseCadの重要性について調べるために、中和抗体等を用いてseCadの機能的阻害を行う。またヒト病態との関連について解析するためにseCadによるメラノーマ細胞の遺伝子変動について調べ、データベースを用いてヒトメラノーマ病態との相関について調べる。また、当初は国内のがん患者検体を収集する予定であったが、目的に合致する十分な数の症例数が国内では入手困難であったため、海外から検体の入手を行った。次年度にこの検体を用いた解析を行い、seCadとメラノーマの転移との関連について解析を行う。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Effects of CREG1 on Age-Associated Metabolic Phenotypes and Renal Senescence in Mice2021

    • 著者名/発表者名
      Hashimoto Michihiro、Goto Ayumi、Endo Yuki、Sugimoto Masataka、Ueda Jun、Yamashita Hitoshi
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 22 ページ: -

    • DOI

      10.3390/ijms22031276

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] An antioxidant suppressed lung cellular senescence and enhanced pulmonary function in aged mice.2021

    • 著者名/発表者名
      Kawaguchi K., Hashimoto M., Sugimoto M.
    • 雑誌名

      Biochem. Biophys. Res. Commun.

      巻: 541 ページ: 43-49

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2020.12.112

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders.2021

    • 著者名/発表者名
      Johmura Y., Yamanaka T., Omori S., Wang T.W., Sugiura Y., Matsumoto M., Suzuki N., Kumamoto S., Yamaguchi K., Hatakeyama S., Takami T., Yamaguchi R., Shimizu E., Ikeda K., Okahashi N., Mikawa R., Suematsu M., Arita M., Sugimoto M., Nakayama K.I., Furukawa Y., Imoto S., Nakanishi M.
    • 雑誌名

      Science

      巻: 371 ページ: 265-270

    • DOI

      10.1126/science.abb5916

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Caveolin-1 Promotes Cellular Senescence in Exchange for Blocking Subretinal Fibrosis in Age-Related Macular Degeneration. Invest. Ophthalmol.2020

    • 著者名/発表者名
      Shimizu T., Yamada K., Suzumura A., Kataoka K., Takayama K., Sugimoto M., Terasaki H., Kaneko H.
    • 雑誌名

      Vis. Sci.

      巻: 61 ページ: -

    • DOI

      10.1167/iovs.61.11.21

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Lamivudine Inhibits Alu RNA-induced Retinal Pigment Epithelium Degeneration via Anti-inflammatory and Anti-senescence Activities.2020

    • 著者名/発表者名
      Yamada K., Kaneko H., Shimizu H., Suzumura A., Namba R., Takayama K., Ito S., Sugimoto M., Terasaki H.
    • 雑誌名

      Transl. Vis. Sci. Technol.

      巻: 9 ページ: -

    • DOI

      10.1167/tvst.9.8.1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 肺疾患における細胞老化の役割2020

    • 著者名/発表者名
      川口耕一郎、杉本昌隆
    • 雑誌名

      老年内科

      巻: 2 ページ: 552-559

  • [雑誌論文] 老化細胞の除去(senolysis)による加齢性疾患治療へのアプローチ2020

    • 著者名/発表者名
      杉本昌隆、川口耕一郎
    • 雑誌名

      ファルマシア

      巻: 56 ページ: 1009-1013

    • DOI

      10.14894/faruawpsj.56.11_1009

  • [雑誌論文] 呼吸器の老化・疾患と細胞老化2020

    • 著者名/発表者名
      川口耕一郎、杉本昌隆
    • 雑誌名

      基礎老化研究

      巻: 44-3 ページ: 21-26

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 細胞老化2020

    • 著者名/発表者名
      川口耕一郎、三河隆太、杉本昌隆
    • 雑誌名

      医学のあゆみ

      巻: 273 ページ: 332-337

  • [学会発表] 呼吸器疾患における細胞老化の役割2021

    • 著者名/発表者名
      杉本昌隆
    • 学会等名
      日本再生医療学会
    • 招待講演
  • [学会発表] Alveolar senescene promotes lung metastasis of melanoma cells.2020

    • 著者名/発表者名
      川口耕一郎、古茂田かおり、三河隆太、浅井あづさ、杉本昌隆
    • 学会等名
      日本基礎老化学会
  • [学会発表] Senescence-dependent alveolar factor promotes metastatic lung cancer.2020

    • 著者名/発表者名
      Kawaguchi K, Sugimoto M.
    • 学会等名
      Mechanism of Aging, Cold Spring Harbor Laboratory Meeting
    • 国際学会

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公開日: 2022-12-28  

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