研究課題/領域番号 |
20H04118
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神崎 展 東北大学, 医工学研究科, 教授 (10272262)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 運動 / 骨格筋 / 免疫 / 代謝 / 好中球 / 運動免疫 / GLUT4 |
研究実績の概要 |
咬筋咀嚼運動モデルに加えて、強制走行運動モデルにおいても、その運動刺激により骨格筋組織内に好中球が一過性に集積する「運動筋ニッチ」が存在し、運動依存性のマイオカイン類の発現亢進と、筋の運動能力(筋持久力)に不可欠であることを明らかにしている。これらの成果をもとに、本年度は、座骨神経の電気パルス刺激(EPS)により任意の収縮運動刺激を後肢骨格筋組織に負荷する実験系を確立して「運動筋ニッチ」における異種細胞間の機能連携性に関する解析を行った。座骨神経へのEPS条件を確定し、ヒラメ筋や長指伸筋などの後肢各骨格筋組織において筋収縮活動に依存して好中球が集積する「運動筋ニッチ」を確認した。また、薬理的実験により、本EPSモデルにおいても強制走行運動モデルと同様にCX3CR1とCXCR2シグナル経路の両方が、「運動筋ニッチ」の形成と各種マイオカイン発現亢進に寄与することを確認した。 運動依存性の好中球動員は筋損傷後の修復過程における重要性が知られていたが、我々の研究により、この運動依存性に一過性に整備される筋内微小領域が各種の骨格筋組織の多岐にわたる運動モダリティーにおいても重要な役割を果たしており、より一般的な運動生理学的事象として普遍的であることを示唆された。さらに麻酔下にあるマウス後肢骨格筋を任意に運動負荷可能なこのEPSモデルのメリットを活用して、多光子顕微鏡をもちいてEPS依存性の後肢骨格筋(大腿四頭筋)の収縮活動時の生体イメージング観察系を確立した。 また、好適な微小領域としての「運動筋ニッチ」から、過度の運動による筋損傷を伴ういわゆる炎症応答としての好中球動員や免疫応答反応への遷移状況を掌握するために、上述した比較的軽微な各種骨格筋運動モデルに加えて、EPSによる筋強収縮負荷に伴う筋損傷と筋痛を惹起する筋炎症モデルでの好中球集積とその生理的意義の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、運動筋内の微小領域に動員された好中球と、その局所での良性の免疫代謝調節機構の解明を通して、運動免疫学の新規概念として「運動筋ニッチ」の生理的重要性を確立することを最終目的としている。研究開始当初は、咬筋咀嚼運動モデルというユニークな(特殊な)運動モデルにおいて見出されたものであるが、これまでの研究成果により、「運動筋ニッチ」は咬筋のみならず、後肢の各種骨格筋組織(ヒラメ筋・長指伸筋・大腿四頭筋)においても同様に、その運動依存性に認められることから、より一般的で普遍的な運動生理学的事象として重要であることが確かめられつつある。また、座骨神経EPSによる後肢筋収縮モデルにおいても同様に「運動筋ニッチ」の形成を誘導でき、その生理的重要性もマイオカイン発現上昇効果として確認することができた。座骨神経EPSモデルでは、麻酔下にあるマウス後肢骨格筋を任意に運動負荷可能なため、多光子顕微鏡をもちいることにより、後肢骨格筋組織での収縮活動時の生体イメージング観察系へと展開することが可能となった。最終年度となる本年度は、これまでの研究成果を最大限に活用し、以下に示す研究アプローチを遂行することにより上記最終目標を達成する。 なお、R2年度はCOVID-19緊急事態宣言の影響により繰越申請を行ったが、R3年度において機器導入が完了し、当初の予定通りに研究を推進することできた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立したマウスの運動負荷実験系と医工学的手法(電気パルス刺激EPS収縮モデル[座骨神経経由])を駆使したin vivo実験を推進する。特に座骨神経EPSモデルでは、筋運動負荷量を任意に正確に制御できるメリットを生かして、好中球の動員/賦活化状態を正確に掌握しながら生体イメージング解析と生化学的解析および発現変動遺伝子の解析を行う。これまでに明らかにした好中球動員に関わる新規マイオカイン類のシグナル群をアンタゴニストにより阻害することにより、運動依存性GLUT4減弱とマイオカイン発現変動をモニターすることで「運動筋ニッチ」における相互的機能連携システムの重要性について、特に糖代謝恒常性に対する生理的意義を明らかにする。さらに2型糖尿病に対する運動効果発現作用を鑑み、「運動筋ニッチ」の状態と、その局所でのインスリン感受性の変化についても調べる。具体的には、2光子顕微鏡での生体筋イメージング解析では、GLUT4-EGFP-tg-mouseを用いて、筋内毛細血管網をEvans Blue、好中球NETs(neutrophil extracellular traps)をSytox色素の計3種の異波長蛍光により同時可視化することを試み、「運動筋ニッチ」周辺部におけるインスリン反応性GLUT4膜移行状況を定量評価する。さらに、好中球機能を薬理的に制御した解析を推進し、運動筋微小環境内での連携作業を理解する。生化学解析では2-Deoxy Glucose取込およびBioPlexアッセイを行い、発現遺伝子変動はRT-PCR法により解析する。
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