研究課題/領域番号 |
20H04119
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90241827)
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研究分担者 |
鈴木 英雄 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00400672)
柳川 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10312852)
石井 亜紀子 筑波大学, 医学医療系, 講師 (10400681)
呉 世昶 筑波大学, 医学医療系, 助教 (10789639)
岡田 浩介 筑波大学, 附属病院, 病院講師 (80757526)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肥満 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 腸内細菌叢 / 菌体成分リポ多糖 (LPS) / サルコペニア / 分子メカニズム / 転写因子Nrf2 / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
肥満は慢性炎症の病態にあり,各臓器組織において活性酸素種 (ROS) の生成が増加する.ROSの増加により惹起される酸化ストレス障害は,骨格筋の減少と筋力低下を示すサルコペニアのリスクを増大させる.肥満とサルコペニアを併発したサルコペニア肥満は生命予後が不良であり,その抑止は重要な医療課題である. 酸化ストレス応答性転写因子Nrf2は,侵害刺激に対する生体防御機構を制御する司令塔因子である.これより,骨格筋においてNrf2は酸化ストレスにより誘導されるサルコペニアに対する抑制因子として機能することが示唆される. 代表者らは,骨格筋におけるNrf2機能を解明する目的で骨格筋細胞にのみNrf2を発現する骨格筋細胞特異的Nrf2遺伝子レスキューマウスの作製に成功した.このマウスに対して,高脂肪果糖食摂餌により肥満を誘導させ,全身Nrf2遺伝子欠失マウスと筋病変を比較解析した.骨格筋Nrf2遺伝子レスキューマウスでは,体重の増加が抑制され,骨格筋Nrf2が抗肥満機能を発揮する可能性が示唆された.また,介入から24週時点における遺伝子レスキューマウスの四肢の筋力 (握力) は高値を示した.一方,組織標本を用いた病理学的評価では,ミトコンドリアの含有と活性を示すSDH染色の染色強度が増強していた.更に,ATPase染色による筋線維組成の評価では,Nrf2遺伝子レスキューによるType 1線維の増加傾向が確認された.骨格筋Nrf2は筋の遅筋化に関与し,これがミトコンドリア機能の維持に寄与している可能性が示唆される.以上の結果より,骨格筋Nrf2の発現は高脂肪果糖食により惹起される炎症・酸化ストレスの抑制に働き,骨格筋の維持に寄与することが推測される.現在,本マウスを用いて,Nrf2による骨格筋障害の防御機構に迫るため,各種生化学的解析を進捗させている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Nrf2ノックインマウス (Nrf2KI/KI) と α-actin Cre マウスの掛け合わせにより,骨格筋細胞特異的Nrf2遺伝子レスキューマウスの作製に成功した.この新規マウスを用いた解析を実施し,骨格筋特異的Nrf2遺伝子レスキューマウスでは,高脂肪果糖食により誘導される体重の増加が抑制されることを確認した.更に,肥満関連性の炎症,酸化ストレスが誘導する筋力の低下,ミトコンドリア障害についても抑制された.以上の結果より,肥満により誘導されるサルコペニアに対して,骨格筋Nrf2は生体の抑制因子として機能することが示唆されている.
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今後の研究の推進方策 |
上記マウスを用いて,骨格筋Nrf2が肥満およびサルコペニアを抑制する分子機構を検証する.また,高脂肪果糖食は,非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) の誘導食としても使用されている.骨格筋Nrf2を介したサルコペニア形成の抑止が,骨格筋-肝臓の臓器連関により,NASH病変を改善し得るか検証する. また,肝細胞,腸管上皮細胞,マクロファージ特異的Nrf2遺伝子レスキューマウスについても作製に使用するマウスは既に保有しており,繁殖を開始している.これらの新規マウスを用いて,サルコペニアに至る経路であるGut-Liver-Muscle axisの各々の臓器組織におけるNrf2の機能を解析する. 更に,高脂肪食摂餌により,肝発癌に至るNASH肝癌モデルp62:Nrf2遺伝子二重欠失マウス (DKOマウス, Exp Anim 2018) をベースに,骨格筋細胞特異的Nrf2遺伝子レスキューマウスを作製し,筋-肝連関によるNASH肝癌の抑制効果についても検証する.
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