小腸内分泌細胞株に腸内細菌代謝物の1つであるL-アルギニンを投与すると、消化管ホルモンの1つであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌が引き起こされることを見出した。そこで細胞内Ca2+、cAMP、さらに細胞内グルコースやATPの濃度測定を可能にする蛍光タンパク質センサーをこの細胞に遺伝子導入し、L-アルギニン投与によって影響を受ける細胞内情報伝達経路の同定を試みた。 小腸内分泌細胞株へのL-アルギニンの投与は、細胞内Ca2+濃度上昇を引き起こしたが、細胞内cAMPやATP、さらにはグルコース濃度に何ら影響を与えなかった。そこで、赤色蛍光タンパク質を基盤としたcGMP特異的蛍光タンパク質センサーを新たに開発し、小腸内分泌細胞株へのL-アルギニン投与時に細胞内cGMP濃度が変化するかどうかを解析した。解析の結果、L-アルギニンの投与により細胞内のcGMP濃度が上昇し、GLP-1の分泌が引き起こされることを見出した。この細胞内cGMP濃度上昇は、一酸化窒素合成酵素の阻害剤の投与によって抑制された。このことから、この細胞内cGMP濃度上昇は一酸化窒素合成酵素を介した反応であることが示唆された。しかし、一酸化窒素によって活性化されるグアニル酸シクラーゼの機能を阻害剤によって阻害しても、L-アルギニン投与によって起こるGLP-1分泌は、完全に抑制されなかった。 これらの結果から、L-アルギニンは、小腸内分泌細胞においてcGMPの産生を引き起こすことでGLP-1の分泌を調節している可能性が示唆される。
|