前年度までの検討にて、必須アミノ酸の中でも特定の必須アミノ酸90%制限食において長管腫瘍が激減することを見出した。機序解明において、このアミノ酸を輸送することが知られているアミノ酸トランスポーターであるL-type amino acid transporter 1 (LAT1)に着目し、予定通り腸管上皮特異的にLAT1が欠損するマウスを作成、さらに、これを腫瘍モデルのApcMin/+マウスと交配することで腫瘍形成の形質を観察した。想定通りLAT1欠損マウスにおいて小腸での腫瘍数が有意に減少することが観察された。重要なことに、本アプローチでは、大腸腫瘍には影響がないことも判明した。機序解析のためLAT1欠損小腸組織を詳細に観察すると、小腸にのみ存在するパネート細胞が劇的に減少しており、これが小腸腫瘍形成抑制には影響し、大腸には影響がない理由と考えた。ApcMin/+モデルの腫瘍形成ではWnt経路活性化の亢進がかかわっていることが知られている。そこでパネート細胞から主に分泌されるWnt3のタンパク量を調べたところLAT1欠損小腸で有意な減少を示し、これが腫瘍発生を減少させていることが示唆された。次いでオルガノイド実験を導入し、in vitroでの検証を追加した。ApcMin/+マウス小腸由来のオルガノイドはWnt経路の無秩序な活性亢進から球形を示すことが知られているが、LAT1欠損のApcMin/+マウス小腸由来オルガノイドでは、野生株と同様の形態(budding)をとり、球形形成が有意に減少した。そこで、培養上清にWnt3aタンパクを補充することで球形が再現できるなどin vivoの観察結果を再現することが可能であった。これらの結果をまとめ、学会報告や論文報告を行った。
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