研究課題/領域番号 |
20H04128
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
岩崎 有作 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (60528420)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GLP-1 / 体熱産生 / アドレナリン / 求心性迷走神経 / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
食事は顕著に体温を上昇させるが、この食後熱産生の機序は未だ不明である。研究代表者は、カロリーゼロの希少糖:アルロースが食後腸ホルモンであるGLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)を強力に分泌させることを発見した。本研究では、GLP-1リリーサーとしてアルロースを用い、腸GLP-1の<感覚神経→脳→副腎アドレナリン分泌>軸を介した体熱産生作用を検証した。当該年度に主に実施した内容は下記の3項目である。 (1)アルロースのGLP-1分泌促進を介した直腸温上昇作用は、カプサイシンを皮下投与して全身の感覚神経を障害させたマウスで完全に消失した。一方、カプサイシン処置マウスへのアルロースの投与は、GLP-1分泌は促進されていたものの、血中アドレナリンの上昇が障害されていた。従って、感覚神経の障害は、GLP-1分泌以降の作用を障害させることが明らかになった。 (2)アルロースのGLP-1分泌促進を介した直腸温上昇作用は、副腎交感神経を外科的に切断したマウスで完全に消失した。副腎交感神経障害マウスへのアルロースを投与すると、GLP-1分泌は促進されたが、アドレナリン分泌の促進が障害された。従って、腸GLP-1の体温上昇作用には、副腎交感神経活性化と副腎からのアドレナリン分泌促進が必須であることが明らかとなった。 (3)神経活性マーカーのc-Fosの発現解析にて、アルロース投与によって活性化される視床下部X神経を同定した。アルロース投与によって神経Xの遺伝子発現量も増加した。これら作用はGLP-1受容体全身欠損マウスで消失した。アルロースによる体温上昇作用は、X神経の受容体阻害剤を脳室内へ投与することで減弱した。従って、腸GLP-1の体温上昇作用において、視床下部X神経が関与することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で検討すべき項目は(1)求心性迷走神経の関与、(2)中枢神経の責任神経の決定、(3)副腎アドレナリンの関与、(4)熱産生末梢臓器の決定、の4項目である。当該年度において、この内3項目の仮説については概ねの見通しをつけることができた。 一方で、GLP-1の求心性迷走神経への直接作用とその作用機序を解明するためのCa imagingシステムの構築について、その準備が少し遅れている。当該年度末にシステムが導入出来たため、翌年度には神経活動解析も可能となる。さらに、臓器特異的な遺伝子導入技術を用いた詳細な解析についても、少し準備が遅れている。現在、本技術をご指導・ご教授下さる協力研究者の先生方と情報交換をし、実験系の立上げを行っている。翌年度より、これらシステムが活用出来るように尽力する。
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今後の研究の推進方策 |
おおよそ当初の計画通りに実施する予定である。 アドレナリン分泌が本作用に必須である事から、アドレナリンが作用する熱産生臓器を探索する。アドレナリンベータ(β)受容体のサブクラス選択的阻害剤を用いて、熱産生に関与する受容体サブクラスを同定する。先行論文によると、アドレナリンベータ2受容体が、骨格筋においては熱産生に関与すると報告されている。そこで、骨格筋特異的ベータ2受容体の欠損マウスを分与頂き(神戸大学小川渉教授)、このマウスにおけるアルロースの熱産生作用を解析する。
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