研究課題
C57BL/6マウスに高脂肪高コレステロール食(HFHC食)を24週間投与し、体重増加、肝脂肪化、炎症細胞の浸潤、肝線維化などのヒトNASH病態の特徴を正確に誘導、再現する新規NASHモデルを用いた検討に着手した。さらに、肝線維化完成後にHFHC食を普通食(ND食)に切り替え8週間投与を継続 (RES 8W)すると肝線維化が組織学的に回復し、その際に肝臓内にCD44+CD62L-CD69+のphenotypeを有するCD8+ Trm細胞が集積することを見出した。肝線維化修復期に抗CD8中和抗体を投与し本細胞を除去すると肝線維化修復がキャンセルされること、肝線維化進展期に本細胞を移入すると線維化進展が抑制されることから、肝線維化を制御する新規細胞標的としてCD8+ Trmに着目した。肝線維化からの回復で重要であることが明らかとなったCD8+Trm細胞が回復を促進する詳細なメカニズムの解析を行った。免疫組織化学染色法を用いた検討の結果、線維化回復期のCD8T細胞は線維化病態において悪玉の働きを示す肝星細胞と非常に近接して存在することが明らかとなった。回復期におけるCD8+Trm細胞の遺伝子発現を網羅的に検討したところ、肝星細胞を近くに呼び寄せる作用をもつケモカインを非常に多く産生していることを見出した。肝星細胞の表面にあるこれらのケモカインを感知する受容体(CCR5)の発現を低下させたところ、CCR5の発現を低下させたマウスにおいて、線維化からの回復が顕著に遅れた。さらに、CD8+Trm細胞と肝星細胞の相互作用の詳細を検討したところ、CD8+Trm細胞がFasLとよばれるタンパク質を介して肝星細胞の細胞死を誘導していることが判明し、回復期に抗FasL抗体を用いてこのシグナルを抑制すると細胞死した星細胞の数が減少し肝線維化の回復がキャンセルされた。以上のことから、CD8+Trm細胞が肝星細胞と近位に存在し、線維化の悪玉である肝星細胞の細胞死を誘導することで線維化からの回復を促進することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
NASH肝線維化修復へのCD8 T細胞の役割ついて当初の計画通り研究を遂行し、新しい知見を得ることができた。
次年度以降、無菌マウスを用いてNASH肝線維化修復への腸内細菌の関与、肝臓内免疫細胞との相互作用を検証する。さらに今回同定したNASH肝線維化修復誘導候補菌を無菌マウスに投与したノトバイオートマウスにNASHを誘導し、その病態への直接的関与を検証する。申請者のグループはこれまでに原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis: PSC)患者の便サンプルを無菌マウスに移植したヒトフローラ化マウスにおいてSPFマウスでは認められない特定の腸内細菌によるbacterial translocation、肝臓Th17誘導が起きることを見出し、同マウスの腸間膜リンパ節からbacterial translocationの原因菌であるKlebsiella pneumoniaeを分離、さらに本菌がPSC患者に高率に検出されることを報告した (Nakamoto N, et.al. Nat Microbiol 2019)。今後、本研究課題においても本手法をNASH患者に応用し、下記の方法によりNAFLD→NASH進展→NASH修復に寄与する腸内細菌の同定を試みる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: -
10.1038/s41467-021-24734-0