研究課題
近年,メンタルヘルス問題(疾患を含む)は,個人,家族,組織,そして社会において大きな負担となっており,解決しなければならない喫緊の課題である。先進諸外国においては,精神疾患のみならず気分の不調による社会的・経済的負担が膨らみ,専門家がおこなう対症療法とは別に,地域,職域,学校における予防措置に関わる具体的介入がおこなわれている。加えて,近年では,予防を超えるプロモーション活動の実践も進み,対症療法から予防措置へ,さらにポジティブ・メンタルヘルスを醸成させることを目的としたプロモーション活動が盛んに行われている。残念ながら,我が国では,具体的な一次予防方策,特に個人が予防やプロモーションのためにおこなう活動の普及啓発が進んでいるとは言えない。本研究では,個人が気分の不調の回復やポジティブ・メンタルヘルス獲得のためにおこなう自助方略に注目し,その効果検証から普及啓発活動に至る一連の流れを想定して研究を実施している。初年度には,気分の不調を早期に回復させる自助方略の内容を検討し,次年度ではそれらの自助方略を日常生活において習慣化させる行動変容技法としてイフ・ゼン・プランを用いた介入をおこない,効果が確認された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,重篤なメンタルヘルス不調に導く前駆段階である気分の不調,例えば「なんとなく憂うつな気分」を改善させることを目的に効果的な自助方略を開発するとともに,それらの行動を日常生活で継続させる試みとして行動変容型の介入を取り入れている。初年度では,専門家(精神科医,臨床心理士など)および一般健常人の各グループを対象に,デルファイ法を用い,気分改善への役立ち度および実践可能性の高い予防的自助方略の内容を選定した。次年度では,予防的自助方略実践の習慣化に関わる動機づけの強化,および対象者の特徴に合わせた介入内容や普及啓発方法を検討した。最終年度では,成人をいくつかの下位集団に限定し,例えば一般若年者,高齢者,妊産婦など対象を絞った介入方法を検討し,リアルワールドで普及できるシステムを構築している。
本年度の研究では,最終年度として,3年間の研究成果をまとめる。加えて,2つの課題について研究を行う。一つは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴うストレス対処として人々に「意味がある活動(ミーニングフル・アクティティ:MA)」の実施を普及させることである。MAとは,それぞれの人のニーズと好みに適合する身体的活動,社会的活動,および余暇活動のことで,具体的な活動内容としては服を着たり,食事をしたり,洗濯をしたりするような日常生活活動から,読書,ガーデニング,美術・工芸,会話や歌を歌うことまで多岐に渡っている(National Institute for Health and Care Excellence, 2013)。最近では,新型コロナウイルス感染症(以後COVID-19と略す)の感染拡大に伴って,感染拡大によるメンタルヘルスへの直接的影響とは別に,MAの役割を調べた研究が見られている。欧米では,MAの増加が,コロナ禍においてさえ,否定的感情を低下させ,肯定的感情を増加させることが報告しており,我が国でもMAの普及啓発効果を調べる。もう一つの研究は,周産期うつ病の予防にはたすポジティブ・メンタルヘルス強化が果たす効果を調べることである。現在,我が国において,妊産婦のうつ病予防は喫緊の課題であり,対症療法とは異なる予防措置として異なるアプローチの効果検証に取り組みたい。
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