研究課題
これまで当研究室は、転写因子NRF3がアミノ酸欠乏・回復刺激によるmTORC1活性化に重要であることを見出している。そこで本年度は、NRF3によるmTORC1活性化メカニズムの解明と細胞内代謝に及ぼす影響、NRF3の活性化ストレス、そしてNRF3と腫瘍免疫の関与について検討した。まずアミノ酸取り込みを担うトランスポーターに着目し、NRF3がアミノ酸欠乏に応答して7つのアミノ酸トランスポーター遺伝子を発現誘導することを明らかにした。特にSLC1A4は、そのノックダウンによってアミノ酸欠乏・回復刺激を介したmTORC1活性化が顕著に抑制されることを見出した。次にNRF3が関与する他の代謝経路を明らかにするためにメタボローム解析を行ったところ、NRF3はセリン/グリシン/スレオニン/メチオニンを消費し葉酸メチオニン代謝を介してプリンヌクレオチド合成を促進する可能性を見出した。実際、NRF3はアミノ酸欠乏に応答して6つの葉酸メチオニン代謝酵素群の発現を誘導することも明らかにした。これらの結果は、NRF3がある種のアミノ酸欠乏により活性化するストレス応答型転写因子であることを強く示唆する。そこでNRF3を活性化するアミノ酸の特定を現在試みている。最後に、NRF3をノックダウンさせたマウス腎臓由来細胞をBalb/cマウスへ移植したところ、腫瘍増殖がきわめて低下することを見出している。同移植腫瘍において上記アミノ酸トランスポーターの発現が有意に低下していることも確認している。以上の結果をまとめると、アミノ酸シグナルによるNRF3活性化が腫瘍増殖、さらには免疫回避に関わることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
先行研究より、NRF3ノックダウンは、アミノ酸欠乏・回復刺激によるmTORC1活性化を劇的に抑制することを見出している。細胞内へのアミノ酸取り込みはアミノ酸トランスポーターが担っており、mTORC1活性化との関連も報告されている。そこで、NRF3はアミノ酸欠乏時にアミノ酸トランスポーター遺伝子の発現を誘導することでmTORC1を活性化すると仮説を立てて検証した結果、4つのアミノ酸トランスポーターのノックダウンによってアミノ酸欠乏・回復刺激を介したp-S6Kの増加が抑制されることを明らかにした。以上の結果から、NRF3はアミノ酸欠乏に応答して4種のアミノ酸トランスポーターの転写を誘導しmTORC1シグナルを活性化する可能性を見出した。次にNRF3過剰発現により変動するメタボローム解析を行い、NRF3はグリシン/セリン/スレオニン代謝を活性化する可能性を見出した。さらに、NRF3過剰発現によってグリシン/セリン/スレオニン/メチオニン量が減少し、プリンヌクレオチド量が顕著に増加することも明らかにした。つまりNRF3は上記のアミノ酸を消費して葉酸メチオニン代謝を亢進し、プリンヌクレオチド合成を促すことが示唆される。そこで、内因性NRF3による葉酸メチオニン代謝制御の可能性を検討するために、HCT-116細胞を用いてアミノ酸欠乏における葉酸メチオニン代謝酵素群の転写誘導を調べた結果、6つの葉酸メチオニン代謝酵素を同定することができた。以上の結果から、アミノ酸欠乏におけるNRF3と葉酸メチオニン代謝の関与、さらにNRF3は葉酸メチオニン代謝酵素群の発現誘導を介してプリンヌクレオチド合成を促す可能性を明らかにした点で上記のように判断した。
本研究では、NRF3がアミノ酸欠乏時にアミノ酸トランスポーターおよび葉酸メチオニン代謝酵素群の発現を誘導することを明らかにしてきた。以上の結果は、NRF3がアミノ酸欠乏に応答して活性化することを強く示唆している。通常NRF3は小胞体に繋留されているが、活性化酵素であるDDI2によるタンパク質切断を受けると核に移行し、標的遺伝子の転写を誘導する。しかし、これまでNRF3を活性化するストレス/刺激については不明だった。この問題はNRF3におけるガン発症メカニズムを解明する上できわめて重要な課題の1つである。また、この解明はNRF3による新たなストレス応答機構として医学的に重要な知見を与える可能性が高い。そこで、NRF3はアミノ酸欠乏に応答して活性化し核移行すると仮説を立てて検証を行っている。アミノ酸欠乏培地を用いて、各アミノ酸を単独欠乏させた時のNRF3の細胞内局在を調べた。その結果、3つのアミノ酸の欠乏によってNRF3の核移行が劇的に促進することを見出した。しかし驚いたことに、アミノ酸欠乏培地を更新して実験を行ったところ上記結果が再現できなかった。この要因としては、以前使用していたアミノ酸欠乏培地が古いため、何らかの物質が分解している可能性を考えた。実際、質量分析によりグルタミンが顕著に減少していることまでを明らかにしている。そこで今後は、これら知見からNRF3活性化ストレス・刺激について同定を試みる。さらにNRF3による腫瘍免疫回避機構の存在をマウス個体レベルで解明する。
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