研究実績の概要 |
タモキシフェン誘導成体脳特異的アストロサイトIRS1欠損(GFAP-IRS1KO)マウスは、正常な随時血糖値を示したが、若齢期で耐糖能異常を呈した。この時、行動解析の結果から、海馬依存的および海馬前脳に関連した空間認知障害と海馬関連認知機能と正の相関が見られる神経細胞神経の低下が観察されたが、ミクログリアに変化は見られなかった。しかしながら、アストロサイトには、2型糖尿病に類似の老化様形態変化が観察され、乳酸を含むモノカルボン酸トランスポーターを介したアストロサイト-神経細胞間のエネルギー源の輸送経路において、乳酸値の低下、モノカルボン酸トランスポーター1,4およびミトコンドリア関連因子の有意な発現変動が観察された。一方で、認知症発症前からも観察される体温調節異常が、GFAP-IRS1KOマウスでも見られた。また、インスリン標的臓器である肝臓のインスリンおよび代謝関連シグナル分子に変化は無く、骨格筋ではGLUT4に変化は無かったが、インスリン刺激後の関連シグナル分子の異常な活性化変動が生じていることが分かった。さらに、2年前後の老齢となったGFAP-IRS1KOマウスの予備解析から、体重、随時血糖値には依然として変化は無いが、若齢期で観察されていた海馬依存的および海馬前脳に関連した空間認知障害は、加齢により増悪化することを見出している。これまでの解析結果から、アストロサイトIRS1は、アストロサイト自身の形態維持と脳のエネルギー代謝経路および全身の糖代謝の制御と認知機能の調節に関与することが示唆された。
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