本研究では、多量の視覚情報の中から、利用者(システムを利用する視覚障害者)にとって必要なものや潜在的に興味があるものを選択的に利用者に伝える手法を検討してきた。利用者が伝えて欲しい視覚情報をあらかじめ登録しておけば、その情報を利用者に選択的に提示することも可能であるが、その場合は事前に予期しない視覚情報を利用者に伝えることが出来ない。そのため、本年度は、予期しない情報を利用者に伝えることが可能にすることを目指して昨年度考案した情報推薦技術を用いて、視覚情報を取捨選択する方法を実装して実験した。
実装したシステムを評価するために、視覚障害者21名に参加してもらい、飲食店を探すというシナリオで実験した。情報推薦を使うには、利用者と利用者以外の人たちの飲食店に対する嗜好情報が必要である。情報推薦がよく用いられるeコマースなどでは、システム利用者の購買情報などから自動的に嗜好情報を取得するが、我々の用途ではこれが難しいため、利用者に手動で入力してもらうことにした。その際の入力の手間を減らす工夫として、嗜好情報を階層化した。階層化した嗜好情報の既存データが存在しないため、晴眼者1000人に嗜好情報を提供してもらった。
実験の結果は現時点でまだ解析中であるが、情報推薦を用いる提案手法が必ずしも実験参加者に好まれた訳では無く、全ての飲食店の情報を読み上げる比較手法の方を好む実験参加者が多かった。この理由は、実験に用いた飲食店を教えるというシナリオでは、当初想定していた視覚情報が極めて多い状況にならなかったことと、情報推薦の推定精度が十分でなかったことが考えられる。また、先天と中途の視覚障害者を比べると、比較手法を好む割合は前者の方が高かった。そのため、更なる解析を進めて、利用者に応じた情報提示の方法を模索したい。
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