研究課題/領域番号 |
20H04214
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
澤田 秀之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00308206)
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研究分担者 |
ハルトノ ピトヨ 中京大学, 工学部, 教授 (90339747)
重宗 宏毅 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (40822466)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / 高速相変態 / 触覚計測 / 触覚提示 / 触覚通信 |
研究実績の概要 |
形状記憶合金(SMA)の相変態は熱の移動によって引き起こされるため、これまでは高速動作が要求されるようなアクチュエーションとその制御には不向きであると考えられていた。申請者らは、SMAの微細ワイヤにパルス電流を流すと、その周波数に同期して300Hzを超える周波数まで、十分に触知覚が可能な振動が発生することを見出した。本研究では、SMAワイヤの高速伸縮動作と時間応答を精密に測定して、物性的特性を解明することを目的とする。更に、SMAの変態動作のダイナミクスならびに変態量を正確に制御する手法を確立し、ソフトアクチュエータ、フレキシブルセンサへの応用展開を図る。 本年度はまず、SMA試料に与える応力と試料温度を制御した際の変位量の精密計測をおこなった。SMAの変位量は、ワイヤ長5 mmに対して、0.1~1μm程度であることが事前測定で解っている。ワイヤに与える応力ならびに試料の温度により変位量が変化するため、これらの条件を精密に固定して変位測定を行うための実験装置を構築した。直径100μm、長さ10cmのSMAワイヤに対して荷重を5~40g、流す電流値を2~20mA、周波数を1, 3, 5 Hzに変化させ、高速度カメラによって変位を計測した。各パルス周波数において、変位が最大となる電流値があることが解った。 次に、Ti-Ni-Cu系SMAワイヤについて振動の物理モデルを作成し、有限要素法により変位量の解析をおこなった。ここでは直径100μm、長さ5.5cmの円柱をSMAワイヤのモデルとし、振動シミュレーションをおこなった。SMAに流すパルス電流の印加電圧値、周波数およびDuty比などを、上述の実実験と同様の条件に設定し、SMAワイヤの発熱量と伝熱演算により、振動の変位が得られた。実実験による変位計側の結果をもとに、SMAの高速動作メカニズムの考察をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
形状記憶合金の相変態は熱の移動によって引き起こされるため、これまでは高速動作が要求されるようなアクチュエーションとその制御には不向きであると考えられていた。実際、これまでのSMAアクチュエータの応用例としては、速度が要求されない小型ロボットの人工筋肉、内視鏡カテーテルや、各種締め付け具、体温に反応して形状が復元する歯科矯正具や肌着などに留まっている。申請者らは人間型ロボット用アクチュエータの研究開発の中で、微細ワイヤに加工したTi-Ni-Cu系SMAワイヤにパルス電流を流すことによって、長さ方向にその周波数と同期した伸縮を起こす現象を発見した。これまでの研究によって、300Hzを超えるパルス周波数にまで応答することを実証し、この微小振動を制御して様々な触覚感覚を生成して提示する触覚ディスプレイの開発につなげてきた。 本研究では、Ti-Ni-Cu系SMAワイヤを中心とし、パルス電流によってその周波数に同期して起こる高速伸縮動作と時間応答を精密に測定し、その物性的特性を解明することを目的としている。形状記憶合金の物性的特性の計測には、従来よりDSC (Differential Scanning Calorimeter) 測定が主に使われてきた。しかし得られる測定データは、温度に対するDSC値であり、変態の時間的変化、つまり変態のダイナミクスについては測定が不可能である。本研究では、高速変態を行うSMAの変位を計測する手法を提案し、また物理シミュレーションにより変位メカニズムの解析をおこなうものである。初年度は、SMAの微小変位を精密に計測する装置を構築し、計測結果をもとに物理シミュレーションによって高速動作のメカニズムについて考察を行った。 以上の成果は、当初の研究計画に沿ったものとなっている。またこれまでの研究成果について、論文誌への投稿準備も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、Ti-Ni-Cu系SMAワイヤを中心とし、パルス電流によってその周波数に同期して起こる高速伸縮動作と時間応答を精密に測定し、その物性的特性を解明することを目的としている。次年度も、実実験によるSMA変位の精密測定を進め、FEM解析による物理シミュレーション結果と併せて、変態ダイナミクスの解明に繋げていく。更に、SMAの変位量を精密に制御する手法を確立し、ソフトアクチュエータ、フレキシブルセンサへの応用展開を図っていく。 特に微細ワイヤの柔軟性、軽量性、省電力動作などの特徴を生かし、微小振動パターンによって様々な触覚感覚を人工的に創り出す触覚ディスプレイならびに、微小応力の計測が可能であることを活かした触覚センサへの展開を進める。人の触覚受容器の構造と機能を踏まえ、触覚感覚を計測してこれを遠隔地において再現・提示するセンサ・ディスプレイの構築を進めて行く。更に、本SMAデバイスは、これまでの振動アクチュエータ、微小応力センサには無い柔軟性や応答性に関する特徴を持つ。ソフトロボット、ソフトインタフェースへの実装を進め、本デバイスの有効性を示していく。
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