拡張現実(Augmented Reality: AR)は一般社会にも広く認知され様々な分野での活用が期待されるが、現状ではシースルー型のヘッドマウンテッドディスプレイやスマートフォン等の携帯端末を利用するものがほとんどである。しかし利用者が個々に機器を使用しなければならない形態は利用シーンに大きな制約を生む。本研究では、世の中に最も普遍的に存在する透明デバイスと考えられる「ガラス窓」に注目し、これにARの表示デバイスとしての機能を持たせることを考える。すなわち、鉛直に設置されたガラス窓に虚像を映し出し、現実空間と重ねて見られる技術の確立を目指す。 透明な2次元ディスプレイの一部は既に実用化されているが、画像の奥行き方向の位置はディスプレイ面上である。AR用途においては、表示画像と実物体や風景とを合わせて見ることが前提であるため、画像の奥行き位置は実物体と近いことが望ましい。そのためには虚像を生成することが必要である。傾斜したハーフミラーを用いて虚像を映し出す、いわゆるペッパーズゴーストと呼ばれる方法は古くから用いられているが、垂直に設置されたガラス窓においてこの仕組みを導入することは困難である。そこで本研究では特殊な反射特性を実現する透過性スクリーンを提案し、これによって鉛直に設置されたガラス窓で虚像表示を実現する方法を確立することを目的とする。令和4年度は表示素子およびスクリーンの指向性により、視点位置に応じて観察される画像を切り替える方法によって、効果的に歪みを低減する方法の検討を行った。
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