研究課題/領域番号 |
20H04241
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
志賀 元紀 岐阜大学, 工学部, 准教授 (20437263)
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研究分担者 |
小原 真司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 独立研究者 (90360833)
小林 正人 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40514469)
平田 秋彦 早稲田大学, 理工学術院, 教授(任期付) (90350488)
小野寺 陽平 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (20531031)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガラス / 中距離秩序 / 機械学習 / 量子化学 / 大規模系計算 |
研究実績の概要 |
非晶質材料に内在する秩序の記述および効率的な計算法の開発のために、理論計算による大規模な構造モデルの構築、量子ビームによる計測データから秩序を同定する方法の開発、また、実験データに適合する構造モデルから中距離秩序を抽出する試みを行った。 大規模な構造モデル構築の課題において、構造エネルギーや原子にかかる力を高速に計算するために機械学習モデルの開発に取り組んだ。訓練データとして、DC-DFTB法を用いてシリカの様々な構造に対して計算した結果を用意した。DC-DFTB計算に対して、全エネルギーを構成原子に割り当てるエネルギー密度解析を用いて、学習データを高効率的に収集することが可能となった。こうして生成された訓練データに対して、原子配置に関する記述子を入力として、機械学習モデルを構築し、予測性能を検証した。 計測データ解析の課題では、Åビーム電子回折実験を計算機において仮想的に行うヴァーチャルÅビーム電子回折法を開発し、計算ホモロジーおよび分子動力学法と組み合わせることで、代表的な金属ガラスであるPd-Siのトポロジー的な秩序領域から得られる電子回折の特徴を調べた。その結果、トポロジー的な秩序領域では1nm以上にわたり方向の揃った擬格子面が形成されており、これに対応して回折パターン中に強い強度のスポットが出現することがわかった。 また、温度と圧力を精密に制御して合成した永久高密度化シリカガラスについて、その高密度化のメカニズムを量子ビーム実験と構造モデリング、トポロジカル解析を駆使することによって明らかにした。ガラスの3次元構造モデルをSPring-8、海外の原子炉・パルス中性子源を利用して測定した量子ビーム実験データを再現する構造モデルを構築し、化学結合によるネットワークが形成するリング、原子分布が形成する空隙を解析することで、永久高密度化ガラスの構造秩序の起源を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論計算によって大規模な構造モデルを構築する課題においては、機械学習モデルを構築するための訓練データを収集するフレームワークができ、従来から知られる機械学習モデルによる予測性能をベンチマークすることができた。しかしながら、予測性能が精密な構造モデルを構築するには不十分なことを確認した。 量子ビーム計測の課題においては、予備的な研究として、分子動力学法で得られたPd-Siのガラス構造について計算ホモロジーと機械学習によって解析した成果を論文として発表した(Commun. Mater. 1, 98 (2020))。本論文では特に冷却速度の違いによる秩序構造の変化に着目しており、短距離秩序構造とそれらの配列に顕著な変化が見られた。このように計算機手法で得られた秩序構造とÅビーム電子回折等の実験を繋ぐことが次のステップであり、現在検討を進めているところである。 高密度化シリカガラスの構造解析に対して、化学結合によるリング解析およびパーシステントホモロジーを用いた構造解析の結果をまとめた研究成果をNPG Asia Materials誌にて発表した(NPG Asia Materials 12, 85 (2020))。本論文はNPG Asia Materialsのトップページにて紹介され、さらにプレスリリースを行った。
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今後の研究の推進方策 |
理論計算によって大規模な構造モデルを構築するために、機械学習モデルの改良が必要である。例えば、機械学習モデルに入力する記述子の改良、また、グラフ構造を用いた手法を検証する予定である。量子ビーム計測の課題において、今後は、Pd-Siなどの主に金属ガラスにおいて、計算ホモロジーで抽出された秩序領域から得られる回折パターンについて、ヴァーチャルÅビーム電子回折法を用いて検討を行っていき、ガラスの局所秩序構造のトポロジー的特徴と回折の関係について系統的に調べていく予定である。また、実験で得られたパターンとの照合を自動的に行うフィッティングソフトの開発や局所構造をÅビーム電子回折データから直接作成する局所逆モンテカルロ法の開発も併せて行っていく。 シリカガラスの研究に関しては、構築した大規模構造モデルに対して各リングの形状およびリング同士の相関に着目した新しい構造解析手法を適用し、ガラスにおける中距離秩序や永久高密度化の起源となる構造を明らかにしていく予定である。また、ガラスの回折データや構築した構造モデルについては量子化学理論計算および機械学習の教師データとして提供することで、理論計算と機械学習の融合課題と連携する予定である。他の材料にも解析を展開する予定であり、例えば、アモルファスシリコンの構造解析を行い比較することで、非晶質の間での構造の違いをアモルファス形成能と構造秩序の関係を議論し、論文としてまとめていく予定である。
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