研究課題/領域番号 |
20H04246
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
塚田 啓道 中部大学, AI数理データサイエンスセンター, 准教授 (40794087)
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研究分担者 |
津田 一郎 中部大学, 創発学術院, 教授 (10207384)
杉崎 えり子 玉川大学, 脳科学研究所, 研究員 (20714059)
奈良 重俊 岡山大学, 自然科学研究科, 特命教授 (60231495)
塚田 稔 玉川大学, 脳科学研究所, 客員教授 (80074392)
山口 裕 福岡工業大学, 情報工学部, 助教 (80507236)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 時空間学習則 / 文脈情報処理 / 実験と理論の融合 / ニューラルネットワーク / アセチルコリン / CA3 / LTP/LTD / 記憶と学習 |
研究実績の概要 |
本年度は実験研究においては海馬CA3領域における時空間学習則(STLR)の存在確認を行った。歯状回の十分離れた顆粒細胞の軸索に刺激電極を設置し、CA3錐体細胞にパッチクランプを行ってシナプス可塑性を計測した。刺激1(バーストを伴う刺激)を入力し、タイミングを合わせて刺激2(弱い刺激)を追加してペア刺激を入力したところ、当初の想定と異なり刺激2のシナプスでは可塑性は観測されなかった。しかしながら、エゼリンを投与してアセチルコリンの作用を働かせ同様の実験を行ったところ、刺激2のシナプスでLTPが誘導される傾向がみられた。本研究結果により、CA1の時とは条件が異なるが、CA3においてもSTLRが存在することが実験により初めて確認された。この結果は、数理モデルにおけるカルシウム濃度とLTP/LTDの関係式における閾値変化に対応しており、数理モデルとCA3の実験結果の整合性も確認できた。 理論研究においてはシステム情報理論と力学系理論の両側面から検討を進め、一般的に広く知られているHebb学習則において力学系による決定論的アプローチと確率過程論的アプローチの対応関係を明らかにした。STLRの機能的側面においては、連続的に入力される文脈情報の共通ベクトル情報が膜電位上で相殺され、新規の入力ベクトル情報が強調されて出力する機能を理論的に明確化した。この機能はLTP/LTDのバランスパラメータを調整することで実現できるため、生理学的にはアセチルコリン投射による調整機能と対応する。 本年度の研究によってトップダウン情報であるアセチルコリンとSTLRの学習則の機能との関連性が明らかになってきた。引き続き理論と実験の双方においてトップダウン情報処理がSTLRの学習メカニズムの及ぼす影響の検討を続け、文脈情報処理におけるSTLRの役割を明確化していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していたより検討が進み、主に以下の進捗があった。 1. 海馬CA3領域において時空間学習則(STLR)の存在が確認された。 2. 海馬CA3領域のSTLR学習則はアセチルコリンと密接な関係があることが示唆された。 3. 海馬CA1領域とCA3領域では時空間学習則が機能するメカニズムが異なる可能性が示唆された。 4. 時空間学習則が機能するフィードフォワード回路と、Hebb則を用いたリカレントネットワークの1層神経回路網によって、文脈情報に対して自己相似的な記憶構造を形成可能であることを発見した。この研究成果の特許申請を現在準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では上記の目標達成のために、理論グループと実験グループは共同研究(実験と理論の融合)を行い、以下の課題を遂行する。 理論グループ:文脈情報処理において時空間学習則が作り出す記憶構造を理論的に明らかにするために、前年度構築したニューラルネットワークモデルを用いて結合行列の特徴を抽出する。特に階層的な記憶構造および時間減衰の影響に着目して解析を行う。また、トップダウン情報が文脈情報処理に及ぼす影響を評価するために、時空間学習則における学習速度およびカルシウム濃度に関連するパラメータを変化させ、神経修飾物質が記憶構造に及ぼす影響を解析する。これらのボトムアップアプローチに加えて、時空間学習則を組み込んだレザバーネットワークの文脈情報処理メカニズムの解析結果を融合することによって、生物学的学習則の文脈情報処理における優位性を検討する。 実験グループ:昨年度実施したCA3における時空間学習則(STLR)の検証で用いたプロトコルを使用し、アセチルコリン(トップダウン情報)作用時のSTLR応答を計測する。この結果と昨年度得られた結果とを比較し、STLRに対するアセチルコリンの効果を評価することでアセチルコリンが記憶構造に及ぼす影響を実験面から検証する。また、結果誘導に大きくかかわったと考えられるアセチルコリン受容体(ムスカリン受容体、ニコチン受容体)の特定実験の準備も進めていく。 本年度は引き続きオンライン(可能であれば対面)による研究会を継続的に開催し、其々のグループで得られた結果を議論することで理論と実験の共通認識構築および研究融合を行う。この融合研究によって得られた新しい知見を取りまとめて学会発表および論文執筆を行う。
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