研究課題/領域番号 |
20H04258
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
香取 勇一 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (20557607)
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研究分担者 |
田向 権 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (90432955)
森江 隆 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (20294530)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニューラルネットワーク / レザバー計算 / 感覚情報処理 / 運動制御 |
研究実績の概要 |
初年度は、超立方体上の疑似ビリヤード・ダイナミクスを用いた計算機構(超立方体計算)の理論・実装・応用の各側面について、基礎的な研究を進めた。 理論については、いくつかの階層的ネットワークモデルの情報処理応用について研究した。特に予測符号化とレザバー計算に基づいたマルチモーダルな感覚情報を統合する階層ネットワークモデルを提案した。このネットワークは視覚領域、聴覚領域、統合領域で構成され、各領域では、動的なレザバーが時間的に変化する感覚信号を再現する生成モデルとして機能する。視覚領域と聴覚領域の視覚と聴覚のレザバーの状態は、空間的に圧縮され、統合エリアに送られる。このモデルを、視覚(手書き文字)と聴覚の対の時系列を含むデータセットで学習させた。その結果、聴覚信号から視覚信号を再構成できることを確認した。 実装についての研究では,超立方体上の擬似ビリヤード・ダイナミックスに基づくレザバー計算のモデルをハードウェア指向のアルゴリズムでデジタル回路に実装し,その性能と新しい人工知能プラットフォームとしての有効性を検証した。 応用については,自律移動ロボットのためのレザバー計算に基づくQ学習モデルを提案した。このモデルは、エージェントが環境から与えられた報酬に基づいて試行錯誤を行う強化学習の枠組み(Q学習)に基づいて学習され,入力層で感覚信号を受け取り,可能な行動価値を出力するとともに、最適な方策に基づいて行動を決定する。このモデルをロボットシミュレータ環境で評価し、適切な行動を学習し、提案モデルがロボット制御に有効であることを確認することが出来た。 以上の研究成果は、感覚情報処理および運動制御への新しい動的メカニズムの確立に寄与するもので、超立方体計算の人工知能システムを実現するための基盤技術となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の中心になるアイデアについて確認することが出来ため、研究は順調に進展しているといえる。今後の課題として、実問題・実応用に含まれる問題の複雑さ難しさに対応するための詳細な検証があげられる。
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今後の研究の推進方策 |
超立方体計算の各種の応用向けた理論的解析、ハードウェア実装に取り組む。ホームロボット応用に向けた理論的な基盤を整備する。各課題について次の項目について研究を進める。 (1)超立方体計算の応用に向けた理論的解析を進める。特にレザバー計算を中心とする情報処理の拡充を図る。レザバー計算と予測符号化に基づいたマルチモーダルな感覚情報を統合する階層的ネットワークモデルを構築し、パターン認識タスクおよび異なるモダリティ間の相互想起タスクでモデルの評価を行う。 (2)集積回路による超立方体計算の実装と評価については、柔軟に回路構成を変更可能なデジタル集積回路(FPGA)を用いて、必要な情報処理を実現するための数値表現の精度や非線形関数の近似精度を調べる。数理構造に基づく回路資源の圧縮手法を用いる。またネットワーク構造や諸パラメータ値の設定について最適な値を見積もる。また構築したロボットに搭載して活用することができる。 (3)レザバー計算と強化学習を組み合わせたロボット制御機構の研究については、初年度に構築したQ学習とレザバー計算を組み合わせた感覚運動制御用ネットワークをさらに発展させる。強化学習に基づいて離散値および連続値の制御信号の学習・生成を行うネットワークモデルを構築し、移動ロボットやロボットアームの制御に応用しその性能を明らかにする。また心的シミュレーションによる学習効率化と行動計画を行うロボット制御モデルを構築する。さらに海馬や扁桃体などの脳領野の機能を模したネットワークモデルを組み合わせることで、機能の拡張を図る。ここで実環境における情報処理のための見積もりを立て、得られた知見を実機のホームロボットの開発に反映させる。
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