様々な人にとって使いやすい製品の設計を支援するためには多様な手による物の扱い方を推定できることが必要となるが,例えば手指機能への制約の生じ方は様々で,すでに制約の生じた者から十分なデータを収集することは難しい.本研究では,手指機能の制約も多様な身体性の一つと捉え,健常な手を持つ者に自身と異なる身体性を疑似体験させることで,そのような身体性を持つ人に特徴的な把持戦略に関するデータを取得し,多様な物体の扱い方を推定することを目指した. 前年度のシステムではVR空間での把持体験の際に不自然な状態で把持が成立してしまい体験性を損ねていたことから,2022年度はハードフィンガーモデルを導入して力学的に把持が成立したとみなせるときに手と物体との相対位置姿勢を固定することにした.これによりユーザによる主観的体験性が向上した.また,開発した体験システムを用いてVR空間で関節可動域の狭い手を体験した場合と,動画閲覧のみにより対象を観察した場合で,新たに提示された手モデルの姿勢が想定した関節可動域を満たしているかどうかを回答させ正しさを比較する実験を行った.その結果,VRシステムにより自分とは異なる狭い可動域を持つ手を体験したユーザの方が正答率が高く,提案したシステムが,自身の手とは異なる身体性を持つ対象の手の理解に資することを示唆した.ただし手姿勢の計測装置の精度に難があり,様々な物の扱い方のデータ取得に利用するには,VRシステムとしての完成度向上が必要と考える.
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