研究課題/領域番号 |
20H04274
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
池浦 良淳 三重大学, 工学研究科, 教授 (20232168)
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研究分担者 |
早川 聡一郎 三重大学, 工学研究科, 准教授 (50288552)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ユーザーインターフェース / マンマシンインターフェース / パワーアシスト / 違和感 / 質量感 |
研究実績の概要 |
パワーアシスト装置は現状の社会に必需となるが,操作者が運搬物体を「重い」と視覚的に感じているにもかかわらず,アシスト装置により必要以上に「軽く」操作できてしまうと,結果的に予想外の急激な危険操作をする可能性が高い.これにより,操作に違和感や恐怖感を抱き,事故につながるなど,緊急に解決しなければならない問題である.この問題は操作者が事前に感じる視覚的重量感と操作中の体性感覚的重量感が大きく異なることが原因と考えられる.そこで,本研究の目的は,制御によりパワーアシスト操作時の体性感覚的重量感を変化させ,実用的で安全安心なパワーアシスト装置を開発することである. 体性感覚的重量感を制御するには,人間の重量知覚特性を把握し,それを基に制御手法を考案しなければならない.そこで令和2年度では,持ち上げ物体の質量や大きさを変化させる一方,制御により物体の重力及び慣性は同じにした場合の人間の持ち上げ動作がどのように変化するかを調査した.実験装置として,応答性能の高いボイスコイルモータを用いた鉛直1自由度パワーアシストシステムを用いて,様々な質量及び大きさの異なる物体を取り付け,制御により一定の質量の物体と同じ運動を実現できるようにし,人間の持ち上げ力及び物体の位置を測定した.その結果,同じ質量であると被験者には伝えているにもかかわらず,自然な持ち上げ挙動とはならないことが分かった.これは,物体を見ることで予め質量が伝えられていたとしても,人間が予想する質量はそれとは異なることを意味する.また,その後,持ち上げ動作を繰り返し行うと,人間の予想質量は変化していき,自然な持ち上げ動作となっていくことも分かった.しかし,ある時間をおいて同じ物体を持ち上げると,やはり自然な持ち上げをすることができず,人間の予想質量はある時間をおくと何らかのリセットがされることが推測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,ダイレクトドライブのアシスト装置を製作する予定であったが,コロナ渦の影響により,設計や部品調達等が大幅に遅れ,製作を行うことが困難となっていた.また,当初の予定である皮膚組織変形機構についても,コロナ渦の影響により設計製作が遅れている.そこで,令和2年度では,従来から利用しているボイスコイルモータを利用した低出力パワーアシスト装置を利用して,研究を行った.従来から利用しているボイスコイルモータを利用したアシスト装置は,運搬物体を変化させることができないため,令和2年度では,運搬物体を変更できるよう改良を行った.具体的には,運搬物体を3段まで重ねることができるようにして,装着する運搬物体の個数を変化させることにより,運搬物体の質量や大きさを変化できるようにした.そして,運搬物体を変化させても,一定の重力及び慣性特性となるようにボイスコイルモータにより力制御を行った.これにより,当初の予定であった高出力アシスト装置による人間の質量感覚特性の解析を行うことはできなかったが,低出力アシスト装置によるさらなる人間の重量感覚特性を解析することができた.また,令和3年度に実施予定の研究を一部行うことにより,令和2年度の遅れを取り戻すことも検討を行った.
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今後の研究の推進方策 |
平成2年度では,ダイレクトドライブモータによるアシスト装置と皮下組織変形機構を内蔵した操作器を製作する予定であったが,コロナ渦により製作が遅れている.そこで,まず,高応答高出力のダイレクトアクチュエータを用いたアシスト装置の製作を優先する.人の持ち上げ感覚は,物体が持ち上がるまでの1秒に満たない時間により決まるため,非常に高速に応答するアクチュエータが必要である.先に示したボイスコイルモータやシャフトモータは非常に応答が速いため,この用途に適している.そして,高出力高応答のパワーアシスト装置により,質量の大きい物体を運搬したときの人間の質量感覚を調査する.これにより,質量の小さい運搬物体で得られた研究結果が,質量の大きい運搬物体においても同様の結果となるか,異なるのであれば,その特性を解析し,質量感覚制御への開発につなげる. そして,次に,皮下組織変形機構の構築を行う.これもボイスコイルモータ又はシャフトモータを利用し,人の持ち上げ動作に瞬時に応答できる装置を開発する.そして,先に開発した高出力高応答アシスト装置と皮下組織変形機構とを組み合わせることにより,質量感覚制御が行えるかを検証する. また令和2年度は,上下運動のみを扱ってきたが,パワーアシストは上下だけでなく,左右や前後など3次元運動をするため,上下以外の運動についても違和感の検討が必要と考えられる.上下運動では,人間は,重力と慣性力を感じ,上下以外の運動の場合は,慣性力を感じる.今後は,重力と慣性のそれぞれについての質量感の違和感の検証が必要である.
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