本研究は申請者独自の技術である神経回路を一細胞レベルで設計・構築可能にするデバイス:「単一神経細胞プレート」を構築することを目的とした。本年度は、前年度までに検討した最適な材料および寸法に従って単一神経細胞プレートを製造し、さらに構築した神経回路の機能解析に用いるためにカーボンナノチューブを用いたマイクロ電極システムの検討を行った。 具体的には、フォトリソグラフィによって微細パターンを形成したポリジメチルシロキサンの鋳型によって細胞接着性のゼラチンメタクリレートを紫外線による硬化によって単一細胞サイズのプレートに加工するプロセスにおいて、まずは神経細胞を培養する検討を繰り返すことで細胞接着が可能なプレートの表面分子の量を最適化した。このとき、細胞非接着領域となるプレート以外の領域においてゼラチンメタクリレートが漏れ出さないように再現性良く加工するために、鋳型の表面にグラファイト粉末を含有させることで紫外線漏れを防ぐ新たな技術開発に成功し、精密かつ再現性の良いプレート製造を行えるようになった。形成した単一神経細胞プレートにヒトiPS神経細胞を培養する検討を行ったが、神経突起の伸長制御のためにはさらに表面の細胞接着タンパク質の材質検討が必要であることがわかった。さらに、形成した神経回路の機能解析のためにはマイクロ電極および薬剤輸送システムが必要であるため、カーボンナノチューブを溶液化したインクによってマイクロ電極を製造する方法を検討し、また薬剤輸送のための微小ポンプの検討を行った。 以上より、本研究によって神経回路を一細胞レベルで人工的に構築する技術の確率が着実に進んだことで、現時点ではできないような高解像度の培養実験系を今後構築し神経科学や神経情報学の発展に寄与できると考えられる。
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