研究課題
本研究では,日常行動と夜間の睡眠状態を複数のセンサで観察することによって,運動・認知機能の自立度を自動的に評価する見守りシステムを構築し,その有効性を評価することを目的にする.具体的には,日常生活行動(ADL)をオントロジーとして計算機が利用可能な知識として定義し,センサデータからADLを認識する方法を,機械学習と論理推論を融合することにより確立する.さらに,機能的自立度評価法(FIM)も知識化することによって,個々のADLにかかった時間や介護の有無といった特徴によって自立度を評価する.結果をレーダーチャートによって可視化することで,自立度の変化を客観的に理解できるようにする.本年度は下記の3項目を行った.① 全体設計:UMLを用いてシステムの全体設計をし,機能・非機能要件,屋内環境制約,センサ制約などを明確化した.システム構成は,見守りフロントエンド,ADL推論・FIM評価部,センサデータ解析部としてモジュールの設計を行なった.② ADLオントロジーの定義とADLコンテクストの機械学習:ADLを「誰がいつどこで何をどのようにする行動」という5W1Hの形で定義しオントロジー言語OWLによって記述した.介護度判定に利用できる機能的自立度(FIM)判定に必要な18個のADLを定義した.記述論理の推論機構によってセンサーから認識されたADLからFIM評価値を決定することができるようにした.③ 睡眠オントロジーの定義と睡眠コンテクストの機械学習:睡眠オントロジーでは,睡眠時に起こす様々な行動として,無呼吸症候群,寝返り,いびき,徘徊を定義し,また,睡眠段階の4レベルを,心拍・呼吸・体動のコンテクスト情報との関係で定義した.さらに,睡眠中の心拍データのみから認知症を判定する機構(認知機能の推定に相当)を開発し,実際の介護施設において実証実験を行い,その有効性を評価した.
2: おおむね順調に進展している
UMLを用いてシステムの全体設計をし,機能・非機能要件,屋内環境制約,センサ制約などを明確化した.UMLユースケース図,クラス図を用いることによって,観測対象となる居住者環境もモデル化できた.ADLオントロジーの定義とADLコンテクストの機械学習では,Protegeというオントロジーエディタを用いて,ADLをW3Cの標準言語であるOWLによって定義した.認知機能ADLを追加定義したことによって,介護度判定などに必要なFIM評価に必要な18個のADL全てを定義することができた.さらにSWRLというルール言語を用いてADLからFIMを計算する方法を定義した.これによって,Protegeの推論機構を用いて,センサや会話から認識されたADLからFIMを自動計算できるようになった.このシステムを介護施設を含む複数の屋内環境に設置して実証実験を行い,収集したデータからのADL認識および,ADLからのFIM評価をして有効性を確認した.睡眠オントロジーの定義と睡眠コンテクストの機械学習については,睡眠オントロジーを睡眠時に起こす様々な行動と睡眠段階を心拍・呼吸・体動のコンテクスト情報との関係で定義した.マットレス型センサから睡眠中の心拍データを取得後,そのデータの変化からサーカディアンリズム(約一日の生体リズム)を推定し,通常のサーカディアンリズムからのズレから,認知症を判定する機構を考案した.また,介護施設の認知症高齢者と,通常の健常者(高齢者,中年者,若年者)を比較したところ,認知症高齢者を9割の精度で特定することに成功した.
今後は下記の2項目を行う.(1)システム統合と実証実験による評価開発した見守りシステムを,実際の高齢者介護施設に設置し,複数人の居住者を対象にした長期の実証実験を行う.これによって,ADL認識精度やFIM判定結果の精度を評価し有効性を検証する.具体的には,現在開発中の複数センサや会話機能を搭載したペット型見守りロボットを介護施設の複数箇所に設置し,施設の中の複数人の居住者を対象に,6ヶ月間にわたって長期観察をする.評価項目としては,FIM評価の正確性,可視化インタフェースの分かりやすさ,センサの無負担性などを予定する.また,認知症判定の精度向上も目指す.心拍データから推定したサーカディアンリズムのズレから,認知機能度合いの変化を半年にわたって分析するとともに,昼寝を含む睡眠状態の関係を明らかにする.さらに,睡眠時に起こす様々な行動として無呼吸症候群に着目し,その判定法と認知機能との関係を分析する.(2)日中行動と夜間睡眠の相互作用の解析被験者4人の6ヶ月分のデータを解析し,特に日中行動と夜間睡眠の間の相関関係をマイニングする.これにより,昼間の行動が睡眠に及ぼす影響,そして,睡眠が昼間の行動に及ぼす影響について,実データに基づいた解析を試みる.結果については,研究協力者である聖マリアンナ医大の協力も得て,医学的な見地からの解明もする.
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