研究実績の概要 |
毎年,7万人以上が日常生活で心停止の危機に見舞われている.危機を目撃した時,「救命の連鎖」の開始点は,第一に心停止の早期認識と通報する市民の意思決定と行動であり,心肺蘇生法(以下 CPR)の姿勢については,ガイドラインに定められている.しかし,リアルタイムに客観的な姿勢評価をすることは,指導資格を有した者でも困難であった.この課題解決へのアプローチとして,最新デバイスのAzure Kinect DKを用いて,被験者の正面と側面の2方向からCPRの上肢・下肢の姿勢を捉え,評価が可能なシステムを開発した. CPR 訓練時の身体の姿勢変化の入力検知センサーデバイスとして用いた Azure Kinect DK (以下,Kinect)は,Windows PC に接続する NUI(Natural User Interface)用入力センサーデバイスである.CPRの訓練時の姿勢の動作(形;カタ)の抽出,そして判定アルゴリズムの開発には,CPR を行う際の身体全体の入力検知のユーザーインターフェース化が必要不可欠であり,キーボードやマウスによる入力デバイスによる CPR 訓練のシステム構成の要件に適さない.本研究では,Kinectを使用して,CPR 訓練時の身体全体を捉えて,いわば身体全体を入力検知することで,全体から部分(肘,肩など)の変動を抽出して,CPR の姿勢の形(カタ)の正誤判定を行うための Kinectを用いた NUI アプリケーションを実装した訓練システムを開発した. 開発したCPR訓練システムの実験の被験者は,CPRの指導を受ける機会が少ない事業者(市民)とCPRの指導を受けた機会が市民に比較すると多い看護学生にシステムを使用させて,実験時の評価結果について考察をした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胸骨圧迫時の圧迫回数は,1分間に約100回~120回とガイドラインで定められている. Kinect表示(正面カメラ)インターフェースの圧迫回数の計数処理機能では, CPR訓練用人形のミニアンを正しい姿勢で圧迫したとき,ガイドラインで定められた5cmの深さに達するとクリッカー音が鳴る.システムではクリッカー音をマイクで取得処理することによってリアルタイムで圧迫回数を計数処理するように実装した.タイマー機能では,訓練時間を1分間で実装し,圧迫回数の計数処理機能と組み合わせることによって,訓練者の圧迫回数が,ガイドラインの基準を満たしているかどうかを確認した. 事業所でのシステムを用いた実験では,44人の被験者から実験データを取得した.被験者の正面に設置したKinect表示インターフェースと側面に表示したKinect表示インターフェースで検知・評価した各部位の点数を平均化した「姿勢総合点」を分析した結果,上述したように胸骨圧迫が正しい深さに達したときのみ計数処理する「圧迫回数」を取得した比較実験した.結果として,相関係数が0.662というやや強い正の相関を示した. 姿勢平均点と圧迫回数の男女差の比較は,全体的に男性の方が高かった.考えられる理由のひとつとしては,男女の重心の差によると推察される.一般的に,男性の重心はへそ(腹部)にあるとされ,女性の重心は腰(骨盤)にあるとされる.CPRの姿勢は,体幹(重量比46%)を心停止者の上に乗せなければならなく,男性の重心の方が体幹を乗せやすく,女性の重心では下半身に重心があるため体幹が乗せにくいと考えられる.今後は, CPR の姿勢の形(カタ)に男女差があるのかについて検討していく.
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今後の研究の推進方策 |
2020年4月に発売された Azure Kinect DK を用いた CPR 訓練システムのNUI アプリケーションの開発に取り組んだきた.現在のシステム展開方法は,正面と側面の2台のKinectに対して, Kinectの要件を満たしているPC(以下,ホストPC)を2台使用している.これは,Kinectが非常に高性能であり,ホストPCにかかる処理の負荷が大きいため,実験に使用しているホストPCでは処理の負荷に耐えきれないからである. 今後の訓練システムの開発では,システムの発展的な展開方法として, 2つの展開モデルを提案する.1つ目は,正面と側面の2台のKinectを1台のホストPCに接続する.Kinect表示インターフェースを1つのディスプレイに表示することで,圧迫時の全体の姿勢評価を導出可能な展開モデルである.2つ目は,正面と側面の2台のKinectを2台のホストPCに接続する.Kinect表示インターフェースをマルチディスプレイに表示することで,圧迫時の全体の姿勢評価を導出可能な展開モデルである. 2つの発展的なシステム展開モデルでは,いずれも訓練者自身が正面と側面からの姿勢を確認することが可能である.2つの発展的なシステム展開モデルは,圧迫時の全体の姿勢評価の導出が訓練者にとって認識しやすい新たなシステム展開方法として提案する. 比較した実験結果の考察として,姿勢総合点と圧迫回数の比較は,帰無仮説の棄却により有意差があった.姿勢に寄与する部位と圧迫回数の比較は,右肘と左肩が帰無仮説の棄却により有意差があった.これらのことから,圧迫姿勢と圧迫回数の関係性が明らかになった. よって開発した訓練システムのCPR訓練において全体の姿勢を捉える意義が立証できたが,訓練者数を増やした実験を遂行していく.
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