研究課題
本研究は3年計画で、氷床コアの分析解析によって過去の人間活動と大気硫黄循環の変遷を復元し、将来予測に役立てる計画である。当該年度の主たる研究成果は、グリーンランドアイスコア(SE-Domeコア)の分析結果を、開発した大気化学輸送モデルと組み合わせ、過去60年間の北米における硫酸生成過程の変化とその要因を突き止めた点にある。大気酸性度が1970年代以降に低下(= 雲pHが上昇)したことよりオゾン酸化による大気硫酸生成が高まったことが、SO2削減にもかかわらず硫酸エアロゾル減少が鈍化している要因となっていることが明らかとなった (Hattori et al. 2021 Science Advances)。また、エアロゾルは大気中寿命が1-2週間と短いため、グローバルな傾向の理解には様々な地域での記録の復元が不可欠である。そこで、予定している中央アジアのアイスコア分析に先立ち、チベット高原エベレスト域における大気エアロゾル観測から、現在のエアロゾルの起源や生成過程の議論を行った。その結果、ダストがもたらす大気酸性度の低下によるオゾン酸化反応が重要な硫酸生成過程となっていることが明らかとなった(Wang, Hattori et al. 2021 Atmos. Chem. Phys.)。さらに、新しいアイスコアとしてSE-Domeコアの第二期掘削が成功したことを受け、本研究での研究を産業革命以前まで復元できる可能性が高まった。このため、SE-Dome第二期コアの基礎解析に参画し、とくに過酸化水素を用いた年層カウントを試みた。このため、フロー型の自動分析装置を開発し、その試料適用まで行うことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究期間内にケミカルフィードバック機構の要因を特定した論文を発表できたことは特筆できる。当該結果は各種の新聞などに掲載されたほか、複数の国際学会・セミナーでの招聘を受けているため、計画以上の進展が見られたと判断した。
引き続きアイスコアの分析を行う。また、大気化学輸送モデルを新しいバージョンにしより複雑な計算に対応し、産業革命以前から現在までのより長期間でのモデル解析を実施する。研究期間内に産業革命以前の記録の復元に取り組むことは難しいが、その前段階である基礎解析による年層カウントを行うことで、同位体分析を実施する前準備を完了させる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
Science Advances
巻: 7(19) ページ: eabd4610
10.1126/sciadv.abd4610
Atmos. Chem. Phys.
巻: 21 ページ: 8357-8376
10.5194/acp-21-8357-2021
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE101JX0Q1A910C2000000/
https://lab-brains.as-1.co.jp/serialization/spg-blog/2021/04/1614/